四竜帝の大陸【赤の大陸編】
我の蹴りで内側へと飛んだ木製の扉を室内に居たカイユが肘で打ち、派手な音を立てて床へと落とし。
「ヴェルヴァイド様、いきなりなにをなさるんですか!? ……ダルフェ! なぜ止めなかったのよ!? この役立たずっ!!」
我が投げつけたダルフェの頭部を右手で掴み、高く持ち上げたカイユは怒りの声を上げた。
「幼生っ! そ、そこはっ! りこのお膝は夫である我だけの指定席なのだぞっ!?」
我は我の予想通り、華奢な椅子に腰掛けたりこの膝に今まさに座ろうとしていた忌々しい物体へと突進し、排除しようと手を伸ばし……阻まれた。
「ハクちゃっ……きゃあああっ!? やめて、ハクちゃん、駄目っ!」
りこが、それを抱え込んだので。
我の手は、届かなかった。
「りこっ!?」
……普段は動作の遅いりこの素早い動きに、我は少々驚いた。
何故こんな時だけ素早くなるのだ!?
「わわっ!? おっさん、こわしたの!? トントンしないし、おぎょうぎ、とーってもわるいの! ねぇね! このおっさん、わるいこね! ぶっぶぶぶー!!」
りこの腕の間から聞こえたのは。
我を嘲る声。
「くっ……貴様ぁああああ!! 再度溶液送りにしてくれるっ!!!」
我にとっては導師などより、“これ”の方が気に障る……りこの寵愛を受ける“これ”のほうが嫌いなのだ!
「ハクちゃん、落ち着いて! こらジリ君、出ないの! 危ないから、ねぇねから離れちゃ駄目よ! ハクちゃん、ごめんなさいっ……ジリ君、まだ体が安定してなくて、ふらふらしてたから! だから、だからっ……ジリ君を怒らないで!」
身をかがめ、りこが我からそれを守ろうと声をあげると。
りこの細い腕の間から、ひょこりとそれが顔を出した。
「おっさん、しっし! ねぇねはジリとぷりんたべるの!」
幼児独特の丸みを持った顔、鮮やかな緑の瞳。
頭部を覆う、ふわりとした栗色の髪。
「ぷ、ぷりん? ……図に乗りおって、幼生めがっ! ダルフェ! いつまでも呆けてないで、さっさとお前の息子をりこから剥がすのだっ!!」
りこに抱えられているのは。
りこの好む鱗を持った竜族の幼生ではなく。
人の形をした、幼子だった。
「え……あ、ジッ……ジリギエ?」
忌々しい幼生は。
ダルフェの息子は。
人型と、なっていた。
通常、竜体から人型へ変態可能になるには生まれてから十数年から数十年。
個体差はあるが、基本的に幼生期の変態は不可能なのだ。
竜体から人型への早すぎる変態は、成長促進剤の副作用だろうが……人間的には三、四歳前後の形態か……。
「……なんつー可愛さ!! 可愛い! さすが俺とカイユの息子っ!!」
ダルフェの顔が気色悪い程、崩れた。
その右頬に青痣あるのは、カイユに殴られたからだろう。
「ととさま! ジリって、とーってもかわいいでしょ? うふふ、わるいこのおっさんは、ちっともかわいくな~い!」
「ッ!?」
勝ち誇ったように笑むその顔を見たダルフェが、どこぞの乙女のように頬に手を添えて叫んだ。
「ジリ! なんて可愛いんだ! 父ちゃんにも抱っこさせてくれ!!」
ダルフェは喜色満面で駆け寄り、りこから息子を受け取ると抱きしめた。
立ち尽くす我の胴に、椅子から腰を上げたりこが両腕を回し、ぎゅうっと抱きしめてくれたが。
その意図は、ダルフェに抱かれたあれに我が危害を加えぬように捕獲したつもりなのだろう……贔屓だ、これは依怙贔屓なのだ!
「……」
「ハクッ……ハ、ハハハクちゃん? 大丈夫!? 眼、瞳孔が開いちゃってるわよ!? 呼吸、止まってるし!? ジリ君があんまり可愛くなっててびっくりしちゃったの? そ、そうよね!? ハクちゃんでもびっくりするくらい、可愛いでしょう!? あ! もちろん、ハクちゃんだってとっても可愛いわよ!?」
「…………」
--可愛い?
--りこはあれが、あんなモノが可愛いのか?
「…………………」
--りこの好む鱗が無い、唯の幼児だぞ?
ーー鱗が無い人型なのに“可愛い”だと!?
「ううっ、天使だ! 可愛い! 可愛すぎる……俺の息子は天使だぜ!」
ダルフェは頬ずりしながら、そう言った。
その父親の垂れ下がった目からは見えぬ角度で、そやつは我へと。
「……(べぇ~、っだ!)」
「…………ッ!?」
りこがあちらを見ておらぬのを確認しての、挑発行為。
天使?
否。
それは、悪魔なのだ。
「ヴェルヴァイド様、いきなりなにをなさるんですか!? ……ダルフェ! なぜ止めなかったのよ!? この役立たずっ!!」
我が投げつけたダルフェの頭部を右手で掴み、高く持ち上げたカイユは怒りの声を上げた。
「幼生っ! そ、そこはっ! りこのお膝は夫である我だけの指定席なのだぞっ!?」
我は我の予想通り、華奢な椅子に腰掛けたりこの膝に今まさに座ろうとしていた忌々しい物体へと突進し、排除しようと手を伸ばし……阻まれた。
「ハクちゃっ……きゃあああっ!? やめて、ハクちゃん、駄目っ!」
りこが、それを抱え込んだので。
我の手は、届かなかった。
「りこっ!?」
……普段は動作の遅いりこの素早い動きに、我は少々驚いた。
何故こんな時だけ素早くなるのだ!?
「わわっ!? おっさん、こわしたの!? トントンしないし、おぎょうぎ、とーってもわるいの! ねぇね! このおっさん、わるいこね! ぶっぶぶぶー!!」
りこの腕の間から聞こえたのは。
我を嘲る声。
「くっ……貴様ぁああああ!! 再度溶液送りにしてくれるっ!!!」
我にとっては導師などより、“これ”の方が気に障る……りこの寵愛を受ける“これ”のほうが嫌いなのだ!
「ハクちゃん、落ち着いて! こらジリ君、出ないの! 危ないから、ねぇねから離れちゃ駄目よ! ハクちゃん、ごめんなさいっ……ジリ君、まだ体が安定してなくて、ふらふらしてたから! だから、だからっ……ジリ君を怒らないで!」
身をかがめ、りこが我からそれを守ろうと声をあげると。
りこの細い腕の間から、ひょこりとそれが顔を出した。
「おっさん、しっし! ねぇねはジリとぷりんたべるの!」
幼児独特の丸みを持った顔、鮮やかな緑の瞳。
頭部を覆う、ふわりとした栗色の髪。
「ぷ、ぷりん? ……図に乗りおって、幼生めがっ! ダルフェ! いつまでも呆けてないで、さっさとお前の息子をりこから剥がすのだっ!!」
りこに抱えられているのは。
りこの好む鱗を持った竜族の幼生ではなく。
人の形をした、幼子だった。
「え……あ、ジッ……ジリギエ?」
忌々しい幼生は。
ダルフェの息子は。
人型と、なっていた。
通常、竜体から人型へ変態可能になるには生まれてから十数年から数十年。
個体差はあるが、基本的に幼生期の変態は不可能なのだ。
竜体から人型への早すぎる変態は、成長促進剤の副作用だろうが……人間的には三、四歳前後の形態か……。
「……なんつー可愛さ!! 可愛い! さすが俺とカイユの息子っ!!」
ダルフェの顔が気色悪い程、崩れた。
その右頬に青痣あるのは、カイユに殴られたからだろう。
「ととさま! ジリって、とーってもかわいいでしょ? うふふ、わるいこのおっさんは、ちっともかわいくな~い!」
「ッ!?」
勝ち誇ったように笑むその顔を見たダルフェが、どこぞの乙女のように頬に手を添えて叫んだ。
「ジリ! なんて可愛いんだ! 父ちゃんにも抱っこさせてくれ!!」
ダルフェは喜色満面で駆け寄り、りこから息子を受け取ると抱きしめた。
立ち尽くす我の胴に、椅子から腰を上げたりこが両腕を回し、ぎゅうっと抱きしめてくれたが。
その意図は、ダルフェに抱かれたあれに我が危害を加えぬように捕獲したつもりなのだろう……贔屓だ、これは依怙贔屓なのだ!
「……」
「ハクッ……ハ、ハハハクちゃん? 大丈夫!? 眼、瞳孔が開いちゃってるわよ!? 呼吸、止まってるし!? ジリ君があんまり可愛くなっててびっくりしちゃったの? そ、そうよね!? ハクちゃんでもびっくりするくらい、可愛いでしょう!? あ! もちろん、ハクちゃんだってとっても可愛いわよ!?」
「…………」
--可愛い?
--りこはあれが、あんなモノが可愛いのか?
「…………………」
--りこの好む鱗が無い、唯の幼児だぞ?
ーー鱗が無い人型なのに“可愛い”だと!?
「ううっ、天使だ! 可愛い! 可愛すぎる……俺の息子は天使だぜ!」
ダルフェは頬ずりしながら、そう言った。
その父親の垂れ下がった目からは見えぬ角度で、そやつは我へと。
「……(べぇ~、っだ!)」
「…………ッ!?」
りこがあちらを見ておらぬのを確認しての、挑発行為。
天使?
否。
それは、悪魔なのだ。