四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「トリィ様。義父様が作ってくださったプリンです。紅茶でよろしいですか? 珈琲、緑茶もありますよ?」
磨きこんだ石で作られた円形のテーブルの上に、カイユが皿を置いた。
椅子に座ったりこの前に供されたそれは、食べられることを喜ぶのか嘆くのかは不明だが、ふるふるとその黄色い身を揺らした。
“ぷりん”の頭頂部(ん? 正しくはなんと言うべきなのだ?)には粘度のある濃い茶色の液体と生クリームがのり、“ぷりん”を囲うように見目良く切られた数種の果物が添えられていた。
「ありがとう、カイユ。紅茶でお願いします……わぁ、美味しそう!」
「……ぷりん」
我は、りこの膝の上に立ち。
テーブルの縁に顎を乗せ、“ぷりん”を確認した。
……我は人型をやめ、竜体になっていた。
あの幼生とお揃いなど、嫌だからな!
「ハクちゃん、良い香りがするよね……ベリーの香りの入浴剤だったの? とっても良い香りね」
幼生とお揃いなど、虫唾が走るのだ!
我がお揃いでいたいのは、りこだけだ!
「気に入ったのか? では、今度は一緒に入ろう。我がりこを洗ってやるのだ」
両手を“にぎにぎ”しながらそう言うと。
「え? 竜体のハクちゃんが……その可愛いにぎにぎの手で、あわあわスポンジを握って、私の背中を……」
りこの頬が、染まった。
……りこの脳内では、我はこの姿のようだが。
我はそのようなことは一言も言っておらぬぞ?
「おい、りこ。我は人がっ……」
「じじさまのぷりん! ジリ、とってもうれしね!」
「……」
幼生の癇に障る声が、我の言葉を遮った。
まあ、良い。
これで、「我は言おうとしたが、幼生に邪魔されたのだ!」と、りこに言えるのだ。
「お! 親父のプリンか、久しぶりだな~。ジリ、まだ指がうまく使えてないだろ? 父ちゃんが食わせてやっからな」
「はい! ととさま、あ~ん、なのです!」
幼生は人型に慣れず、四肢の動きが安定していない。
ゆえに、スプーンを手に取ったダルフェが膝に座らせた息子の口に“ぷりん”を運んだ。
……ふん、面倒な事だ。
どうせなら皿ごと、その生意気な口に突っ込んでやればよいものを!
「りこには我があ~んをしてやるのだ。カイユ、スプーンを寄越せ」
りこの前に置かれた皿には、スプーンもフォークも添えられていなかった。
それらを手に持ったカイユが仁王立ちし、我を見下しながら言った。
「ヴェルヴァイド様。スプーンをお渡しするのは、お話しが済んでからです」
「話し? 説教の間違いでは無いのか?」
その冷たい視線はどう見ても、“お話し”ではないのではないか?
「……扉を蹴るなんて! 鯰の時といい、まったく貴方様はなんて足癖が悪いのかしらっ!」
我よりカイユのほうがよほど悪い……という言葉が脳に浮かんだが。
「……」
我は、黙った。
ここでその事実を正論として述べた場合、我はスプーンは得られない可能性があるからだ。
うむ、我はりこを得て以来、かなり賢くなった気がするな……。
「あのような事をして、扉がトリィ様に当たったらどうなさるおつもりですか!?」
眼をつり上げ、カイユが言ったので。
「お前が室内に居るのだから、そのような事態にはならんのだ」
我が、そう答えると。
「そんなことは言われるまでも無く当然のことなのです!! もっと常識的な立ち振舞いと、物を大事にするお気持ちを持って頂きたいのですっ!」
カイユの手の中で、スプーンとフォークがぐにゃりと曲がった。
やわい銀製品とはいえ、まったく……カイユこそ、物を粗末にしているではないか。
しかし、少々賢くなった我は、それを指摘する事は今この場ですべきではないと判断し。
「まぁ、そのように怒るな。もう若くないのだから皺になるぞ?」
当たり障りの無い事を、口にしてみたが。
「ッ!?」
「ハクちゃん!? し、信じられないっ……なんて失礼なこと言うの!? カイユ、カイユ! ごめんなさい!」
それを聞いたりこは我を残し、萌黄色のレカサを着ているカイユへと駆け寄り。
深々と頭を下げた。
「? りこ?」
りこが去ったので。
結果、我は顎をテーブルに乗せ、ぶら下がることになった。
「カイユ、ごめんなさい!」
「いいのですよ、全く気にしてませんから。さぁ、お顔を上げてください」
「カイユッ……」
りこに頭を上げさせると。
使い物にならなくなったフォークとスプーンを持たぬ方の手で、りこの髪を優しい手つきで撫でながら。
「……ヴェルヴァイド様。あちらに土鍋がありますわよ?」
顎で部屋の奥を指し示しつつ、そう言った。
鍋(反省部屋)を提示されるとは。
「……」
はて?
我は、一体なにを失敗したのだろうか?
磨きこんだ石で作られた円形のテーブルの上に、カイユが皿を置いた。
椅子に座ったりこの前に供されたそれは、食べられることを喜ぶのか嘆くのかは不明だが、ふるふるとその黄色い身を揺らした。
“ぷりん”の頭頂部(ん? 正しくはなんと言うべきなのだ?)には粘度のある濃い茶色の液体と生クリームがのり、“ぷりん”を囲うように見目良く切られた数種の果物が添えられていた。
「ありがとう、カイユ。紅茶でお願いします……わぁ、美味しそう!」
「……ぷりん」
我は、りこの膝の上に立ち。
テーブルの縁に顎を乗せ、“ぷりん”を確認した。
……我は人型をやめ、竜体になっていた。
あの幼生とお揃いなど、嫌だからな!
「ハクちゃん、良い香りがするよね……ベリーの香りの入浴剤だったの? とっても良い香りね」
幼生とお揃いなど、虫唾が走るのだ!
我がお揃いでいたいのは、りこだけだ!
「気に入ったのか? では、今度は一緒に入ろう。我がりこを洗ってやるのだ」
両手を“にぎにぎ”しながらそう言うと。
「え? 竜体のハクちゃんが……その可愛いにぎにぎの手で、あわあわスポンジを握って、私の背中を……」
りこの頬が、染まった。
……りこの脳内では、我はこの姿のようだが。
我はそのようなことは一言も言っておらぬぞ?
「おい、りこ。我は人がっ……」
「じじさまのぷりん! ジリ、とってもうれしね!」
「……」
幼生の癇に障る声が、我の言葉を遮った。
まあ、良い。
これで、「我は言おうとしたが、幼生に邪魔されたのだ!」と、りこに言えるのだ。
「お! 親父のプリンか、久しぶりだな~。ジリ、まだ指がうまく使えてないだろ? 父ちゃんが食わせてやっからな」
「はい! ととさま、あ~ん、なのです!」
幼生は人型に慣れず、四肢の動きが安定していない。
ゆえに、スプーンを手に取ったダルフェが膝に座らせた息子の口に“ぷりん”を運んだ。
……ふん、面倒な事だ。
どうせなら皿ごと、その生意気な口に突っ込んでやればよいものを!
「りこには我があ~んをしてやるのだ。カイユ、スプーンを寄越せ」
りこの前に置かれた皿には、スプーンもフォークも添えられていなかった。
それらを手に持ったカイユが仁王立ちし、我を見下しながら言った。
「ヴェルヴァイド様。スプーンをお渡しするのは、お話しが済んでからです」
「話し? 説教の間違いでは無いのか?」
その冷たい視線はどう見ても、“お話し”ではないのではないか?
「……扉を蹴るなんて! 鯰の時といい、まったく貴方様はなんて足癖が悪いのかしらっ!」
我よりカイユのほうがよほど悪い……という言葉が脳に浮かんだが。
「……」
我は、黙った。
ここでその事実を正論として述べた場合、我はスプーンは得られない可能性があるからだ。
うむ、我はりこを得て以来、かなり賢くなった気がするな……。
「あのような事をして、扉がトリィ様に当たったらどうなさるおつもりですか!?」
眼をつり上げ、カイユが言ったので。
「お前が室内に居るのだから、そのような事態にはならんのだ」
我が、そう答えると。
「そんなことは言われるまでも無く当然のことなのです!! もっと常識的な立ち振舞いと、物を大事にするお気持ちを持って頂きたいのですっ!」
カイユの手の中で、スプーンとフォークがぐにゃりと曲がった。
やわい銀製品とはいえ、まったく……カイユこそ、物を粗末にしているではないか。
しかし、少々賢くなった我は、それを指摘する事は今この場ですべきではないと判断し。
「まぁ、そのように怒るな。もう若くないのだから皺になるぞ?」
当たり障りの無い事を、口にしてみたが。
「ッ!?」
「ハクちゃん!? し、信じられないっ……なんて失礼なこと言うの!? カイユ、カイユ! ごめんなさい!」
それを聞いたりこは我を残し、萌黄色のレカサを着ているカイユへと駆け寄り。
深々と頭を下げた。
「? りこ?」
りこが去ったので。
結果、我は顎をテーブルに乗せ、ぶら下がることになった。
「カイユ、ごめんなさい!」
「いいのですよ、全く気にしてませんから。さぁ、お顔を上げてください」
「カイユッ……」
りこに頭を上げさせると。
使い物にならなくなったフォークとスプーンを持たぬ方の手で、りこの髪を優しい手つきで撫でながら。
「……ヴェルヴァイド様。あちらに土鍋がありますわよ?」
顎で部屋の奥を指し示しつつ、そう言った。
鍋(反省部屋)を提示されるとは。
「……」
はて?
我は、一体なにを失敗したのだろうか?