四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「ハクちゃん?」
「……」
ハクちゃんの顔を見上げたら、彼は私を見下ろしていた黄金の眼を細め。
「きゃっ!?」
私を抱き上げ、腕の中に隠すようにして。
「あまり見るな、減る」
と、言った。
……ハクちゃん、前にも言いましたが私は減りませんからね!?
でも、ここには「はぁ!? 何言ってんだ、このクソジジイ! 減らねぇよ!」って、ビシッと突っ込みをいれてくれる青の竜帝さんはいない。
女神様、貴方の突っ込みが懐かしいです!
「と、いうわけだから!」
苦笑したダルフェさんが、ハクちゃんの言動に戸惑っている竜族の皆さんへと声を掛けた。
「はい、皆、もう散って散って~! 後日、城でお披露目兼ねて舞踏会と武闘会があるからさ! 今日の俺達はお忍び扱いで頼むな! あ、それから俺はもう団長じゃないし、今後も団長には戻らない。団長はクルシェーミカだ。間違えるなよ?」
そうだ、ダルフェさんって赤の竜騎士の元団長さんだった。
結婚前は赤の竜騎士団の団長だったって、ハクちゃんから聞いて…………あれ?
ダルフェさん、お忍びって仰いましたよね!?
私達、いえ、私以外の御三人様はぜんぜん忍んでなかったですけれど?
……と、小心者の私は心の中で私が突っ込みをいれてしまったけれど。
赤の竜族の皆さんはダルフェさんの"忍んでないのにお忍びなんです宣言”に快く頷いてくださり、すすーっと引いてくれた。
「皆さんに気を遣わせてしまって、申し訳ないでっ……」
言葉が喉に詰まったのは。
気付いたから……私達に向けられた竜族の皆さんの親しみと歓迎に満ちた視線の中に、それとは違う感情を色濃くした……あの人達って、竜族じゃなくて人間よね?
青の帝都の街にいた一目で富裕層とわかる人達とは違って、華美とは言い難い実用的な服装……商人?
帝都に観光しにきたんじゃなくて、お仕事で来ている人達かしら?
「……ねぇ、カイユ。普通の人間の人達は、ハクちゃんのこの姿を知らないのよね? <監視者>と分からなくても、やっぱり彼が怖いの?」
異性だけでなく同性も見惚れるほどハクちゃんは綺麗だけれど、基本的には無表情だし整いすぎてるから良い印象を持つのは難しいだろうとは思う。
直視はできない系の冷たく怖いお顔だけど……でも、あんなに怯えた眼で見るなんて……。
「トリィ様……この街に居る人間達のあの視線は、ヴェルヴァイド様に向けられたものではありませんわ。彼等が怖れたのは、ダルフェと私……竜騎士という存在だと思います。そうででょう? ダルフェ」
カイユさんは少し困ったような顔で私を見てから、ダルフェさんにそう言った。
「ん? まぁ、そうだろうねぇ~。俺達の格好見りゃ竜騎士だってのは、一目瞭然だからな」
ダルフェさんの緑の瞳が、ちらりとそちらを流し見ると。
五人ほどでこちらを見ていた商人風の人達の顔が、みるみるうちに青くなり……顔を伏せ、背を向けて小走りで去って行った。
なんてあからさまなっ……彼等に何もしていないダルフェさんに対して、あの態度はないんじゃないかしら!?
「……ッ」
「りこ?」
「あ、ごめんなさいハクちゃんっ」
思わずぎゅっとハクちゃんの髪を掴んでしまったことを謝ると。
「ダルフェ、かまわんぞ?」
「いいんですか?」
私との会話の繋がりがまったく見当たらない、その唐突なその言葉に。
意図も意味も分からなかった私は、二人の顔を交互に見てしまった。
「ハクちゃん? ダルフェ?」
「ん~、まぁ、いっかな? カイユは知ってることだし、姫さんに知られても今更どうこうってわけでもねぇしな~…………」
ダルフェさんは白い手袋をした右手を顎に添え、数秒間眼を閉じて……ゆっくりと開けた眼を、青い空に向け。
「姫さん。青の大陸の人間達の何倍も、この大陸の人間は竜騎士を怖がっている。竜騎士が必要以上に怖がられちまうようになったのは、俺のせいなんだ」
視線を、空からハクに抱かれている私へと戻した。
「ダルフェのせい?」
赤の大陸で竜騎士が必要以上に怖がられるようになったのが、ダルフェさんのせい?
「そ、俺のせい。俺は<色持ち>で強かったからさ、こ~んなチビな幼竜の時から竜騎士をやってたんだ」
ダルフェさんは手で示したのは、彼の腰以下で……そんなに小さな頃から、竜騎士のお仕事をしていたの?
「俺はね、舅殿やカイユみたいにまとも・・・な団長じゃなかったんだよ」
「ダ、ダルフェ……」
私、聞いてしまって良いんだろうか?
ハクちゃん、どうして貴方は「かまわんぞ?」なんて言ったの?
「あのな、姫さん。俺の仕事・・は、"人殺し”なんてまともなもんじゃなかった」
人殺しが……まとも?
聞き返すこともできず見つめた、ダルフェさんの顔にあるのは。
「ただの"殺戮”、だったんだよ」
いつもと変わらない。
笑顔、だった。
「さつ、りく?」
殺戮。
その言葉の意味は。
惨たらしく、多くの人を殺すことーー。
残酷で凄惨な言葉を口にしたダルフェさんは。
「そう、殺戮。または虐殺?」
笑顔、だった。
「……」
ハクちゃんの顔を見上げたら、彼は私を見下ろしていた黄金の眼を細め。
「きゃっ!?」
私を抱き上げ、腕の中に隠すようにして。
「あまり見るな、減る」
と、言った。
……ハクちゃん、前にも言いましたが私は減りませんからね!?
でも、ここには「はぁ!? 何言ってんだ、このクソジジイ! 減らねぇよ!」って、ビシッと突っ込みをいれてくれる青の竜帝さんはいない。
女神様、貴方の突っ込みが懐かしいです!
「と、いうわけだから!」
苦笑したダルフェさんが、ハクちゃんの言動に戸惑っている竜族の皆さんへと声を掛けた。
「はい、皆、もう散って散って~! 後日、城でお披露目兼ねて舞踏会と武闘会があるからさ! 今日の俺達はお忍び扱いで頼むな! あ、それから俺はもう団長じゃないし、今後も団長には戻らない。団長はクルシェーミカだ。間違えるなよ?」
そうだ、ダルフェさんって赤の竜騎士の元団長さんだった。
結婚前は赤の竜騎士団の団長だったって、ハクちゃんから聞いて…………あれ?
ダルフェさん、お忍びって仰いましたよね!?
私達、いえ、私以外の御三人様はぜんぜん忍んでなかったですけれど?
……と、小心者の私は心の中で私が突っ込みをいれてしまったけれど。
赤の竜族の皆さんはダルフェさんの"忍んでないのにお忍びなんです宣言”に快く頷いてくださり、すすーっと引いてくれた。
「皆さんに気を遣わせてしまって、申し訳ないでっ……」
言葉が喉に詰まったのは。
気付いたから……私達に向けられた竜族の皆さんの親しみと歓迎に満ちた視線の中に、それとは違う感情を色濃くした……あの人達って、竜族じゃなくて人間よね?
青の帝都の街にいた一目で富裕層とわかる人達とは違って、華美とは言い難い実用的な服装……商人?
帝都に観光しにきたんじゃなくて、お仕事で来ている人達かしら?
「……ねぇ、カイユ。普通の人間の人達は、ハクちゃんのこの姿を知らないのよね? <監視者>と分からなくても、やっぱり彼が怖いの?」
異性だけでなく同性も見惚れるほどハクちゃんは綺麗だけれど、基本的には無表情だし整いすぎてるから良い印象を持つのは難しいだろうとは思う。
直視はできない系の冷たく怖いお顔だけど……でも、あんなに怯えた眼で見るなんて……。
「トリィ様……この街に居る人間達のあの視線は、ヴェルヴァイド様に向けられたものではありませんわ。彼等が怖れたのは、ダルフェと私……竜騎士という存在だと思います。そうででょう? ダルフェ」
カイユさんは少し困ったような顔で私を見てから、ダルフェさんにそう言った。
「ん? まぁ、そうだろうねぇ~。俺達の格好見りゃ竜騎士だってのは、一目瞭然だからな」
ダルフェさんの緑の瞳が、ちらりとそちらを流し見ると。
五人ほどでこちらを見ていた商人風の人達の顔が、みるみるうちに青くなり……顔を伏せ、背を向けて小走りで去って行った。
なんてあからさまなっ……彼等に何もしていないダルフェさんに対して、あの態度はないんじゃないかしら!?
「……ッ」
「りこ?」
「あ、ごめんなさいハクちゃんっ」
思わずぎゅっとハクちゃんの髪を掴んでしまったことを謝ると。
「ダルフェ、かまわんぞ?」
「いいんですか?」
私との会話の繋がりがまったく見当たらない、その唐突なその言葉に。
意図も意味も分からなかった私は、二人の顔を交互に見てしまった。
「ハクちゃん? ダルフェ?」
「ん~、まぁ、いっかな? カイユは知ってることだし、姫さんに知られても今更どうこうってわけでもねぇしな~…………」
ダルフェさんは白い手袋をした右手を顎に添え、数秒間眼を閉じて……ゆっくりと開けた眼を、青い空に向け。
「姫さん。青の大陸の人間達の何倍も、この大陸の人間は竜騎士を怖がっている。竜騎士が必要以上に怖がられちまうようになったのは、俺のせいなんだ」
視線を、空からハクに抱かれている私へと戻した。
「ダルフェのせい?」
赤の大陸で竜騎士が必要以上に怖がられるようになったのが、ダルフェさんのせい?
「そ、俺のせい。俺は<色持ち>で強かったからさ、こ~んなチビな幼竜の時から竜騎士をやってたんだ」
ダルフェさんは手で示したのは、彼の腰以下で……そんなに小さな頃から、竜騎士のお仕事をしていたの?
「俺はね、舅殿やカイユみたいにまとも・・・な団長じゃなかったんだよ」
「ダ、ダルフェ……」
私、聞いてしまって良いんだろうか?
ハクちゃん、どうして貴方は「かまわんぞ?」なんて言ったの?
「あのな、姫さん。俺の仕事・・は、"人殺し”なんてまともなもんじゃなかった」
人殺しが……まとも?
聞き返すこともできず見つめた、ダルフェさんの顔にあるのは。
「ただの"殺戮”、だったんだよ」
いつもと変わらない。
笑顔、だった。
「さつ、りく?」
殺戮。
その言葉の意味は。
惨たらしく、多くの人を殺すことーー。
残酷で凄惨な言葉を口にしたダルフェさんは。
「そう、殺戮。または虐殺?」
笑顔、だった。