四竜帝の大陸【赤の大陸編】
 「……りこ」
「……ぁ、ハクちゃっ……」

 ダルフェの言葉よって強ばった、りこの身体。
 りこ、我のりこ。
 ダルフェの数倍、いや、比較にならぬほど多くを殺した我の、この腕の中で。
 貴女は何を感じ、思うのか?

「……わ、私はっ……」

 あぁ、今ここで。
 貴女のその心の内を、暴いてしまいたい。
 我のこの手で、その柔肌から引きずり出して晒してみたい。
 剥き出しになった貴女の心を、この口で喰んで、この舌で舐め、この歯で噛み砕き。
 一欠片も残さず味わい、嚥下し、胃に収め。
 情愛の酸で溶かして、この身に混ぜてしまいたい……。

「…………ダルフェよ」
「なんです?」

 ヴェリトエヴァアル、我の殺した赤の竜帝よ。
 黄泉より我を、見ておるか?
 良き妻を得て、賢くなった我は。
 "寂しい”、だけでなく。
 多様な感情を得たのだ。
 そして。
 食わぬ我が。
 "喰らう”悦びをも、知った。
 喰らい、味わう悦びを知ってしまったのだ。

「お前が千を虐げ、万を殺そうと」

 我が味わうのは、愛しい女ひとの柔肉や甘い体液だけではなく。
 心も、想いも、その存在全てを魂ごと味わうのだ。

「我が妻は、お前を忌むことなどできぬのだ」
「……でしょうねぇ」

 それはそれは美味であり……一度喰らえば、くせになるほどの……。

「だから、"かまわんぞ”だったんでしょうからね……」

 貼り付けていた笑みを、その顔から剥がし。
 緑色の眼を細め。
 我のりこを、真っ直ぐに見たダルフェの顔を。

「まったく、しょうがない人ね……そんな表情かおするのなら、言わなければよかったのに」
「……ごめん、カイユ」

 カイユの両手が、覆い隠した。
 このカイユというつがいを得て、ダルフェは変わった。
 りこを得た我が、変わったように。
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