四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「赤の帝都は、下に竜騎士が常駐してる関所っていうのがあるんだ。外部から来た人間の馬や馬車は、ここで預かる。運搬係の竜族が、人と荷を商用の籠に乗せて上まで運んでるんだ」
「下で、赤の竜騎士さんが入国審査みたいなことをしてるってことですか?」
「うん、そう。密猟団や盗賊の手下、軍関係者、密偵、違法術士……まぁ、そういった人種を帝都に入れないようにな」
「……み、密猟団? 密猟って、まさか竜族を!?」
青の大陸と赤の大陸では、密猟による被害は数倍の差がある。
「赤の大陸には竜族の密売組織が大小いくつもあって、潰しても次から次に湧いてくる。いたちごっこ状態なんだよ。まぁ、それだけ需要があるってことだ」
血肉だけでなく、骨、鱗等……。
それらの薬効を信じる者達が、赤の大陸には未だに多い。
用途は他にもある。
見目の良い者は術式で人型に固定し、高値で売買される。
人間と違い、多少雑に扱っても壊れず長持ちする。
奴隷として、玩具として。
竜族は、最高の商品なのだ。
「密売組織っ……私をアリシャリから買いに来た人って、そういう人だったんですね……」
そうであった。
りこは、竜族の雌として捕らわれ、売買されるところだったのだ。
……あの場に居た術士は、元はブランジェーヌの雇った契約術士であったようだが…………赤の帝都を追放された後、導師と……それは偶然ではなかろう。
つまり、数十年以上の期間にわたり、青の大陸だけでなく赤の大陸での竜族の動きも、導師は常に監視しておったということだ。
黄と黒の大陸でも同様だろう……ずいぶんと気が長く、執念深い…………導師とやらは、よほど暇なのだろうか?
「姫さんに輪止を使って声を奪ったあの馬鹿は、うちの契約術士だったんだけどさ。図に乗りやがってムカついたから、術式の発動に必要な基点を潰してここから捨ててやったんだ。……そういや、カイユ。新しい契約術士の面接があるって、母さんが言ってたよな?」
「ええ、確かにそう仰っていたわ」
「赤の大陸じゃ、竜帝に雇われてもいいって術士は希だ。それに星持ちクラスしか雇わねぇから、なかなか見つからねぇ。面接って事はスカウトしてきたんじゃなく、自分から売り込んできたってことか? そんな術士、初めてだな……そいつ、大丈夫なのか? ……ん~、久々に俺が"お試し”してみるか……」
"お試し”?
ああ、術士が使えるかを確認するのか。
ダルフェは以前、その"お試し”相手の情報を得るためだとか言い、ゲルドルフ公国の娼館にドラーデヒュンデベルグ帝国の軍人と詐称して逗留しておったな。
ダルフェが身を偽る時は、目立つ赤い髪を染め粉で変えていた……我は借りた本を返しにそこに転移しただけであって、女共を侍らせていたダルフェと違いなんらやましいことはないのだ。
りこよ、我は金で女を借ったことなどただの一度もないぞ!
我は常に無一文なのだから!
だが、取りあえず。
この件は、りこには内緒なのだ。
「ダルフェ、赤の竜帝さんは契約術士さんを募集中なんですね?」
「俺があの馬鹿をポイ捨てした後、後釜が決まらなくてずーっと募集中なんだ。給料はそこいらの王侯貴族に負けないくらい出すし、退職金もはずむ。でも、難しいんだよな~……まぁ、俺が悪いんだけどな」
「え? ダルフェが悪いって、どういうことなんですか?」
ダルフェはまったく悪いと思っていないとしかとれぬ、愉快げな表情で言った。
「術士を殺し過ぎて、術士協会から何度も警告くらってんだよ、俺。術士ってのは貴重だから、基本的には生きて捕らえ、協会に引き渡して更正を試みるってのが赤の大陸の術士協会では決まって……あれ?」
ダルフェの視線が、動き。
一点で、止まった。
「こっちに走ってくるあの丸い物体っ……もしかして、研ぎ師のマーサおばちゃんかっ!?」
ダルフェの視線を追い、カイユもりこもそちらへと顔を向けた。
我は"研ぎ師のマーサおばちゃん”に興味はなかったが。
数秒遅れたが、我も皆を真似て"研ぎ師のマーサおばちゃん”を見た。
うむ、これが団体行動ということなのだろう。
「マーサおばちゃん! 久しぶりだな!」
「青の大陸から帰って来たダルフェが、嫁さんとヴェルヴァイド様と奥方様を連れて街に来てるって、金物屋のイシンが教えてくれたんだよ! お帰り、ダルフェ!」
街の方からダルフェめがけて駆けてきたのは、竜族の雌だった。
中高年期の雌竜で、樽のように肥えていた。
「下で、赤の竜騎士さんが入国審査みたいなことをしてるってことですか?」
「うん、そう。密猟団や盗賊の手下、軍関係者、密偵、違法術士……まぁ、そういった人種を帝都に入れないようにな」
「……み、密猟団? 密猟って、まさか竜族を!?」
青の大陸と赤の大陸では、密猟による被害は数倍の差がある。
「赤の大陸には竜族の密売組織が大小いくつもあって、潰しても次から次に湧いてくる。いたちごっこ状態なんだよ。まぁ、それだけ需要があるってことだ」
血肉だけでなく、骨、鱗等……。
それらの薬効を信じる者達が、赤の大陸には未だに多い。
用途は他にもある。
見目の良い者は術式で人型に固定し、高値で売買される。
人間と違い、多少雑に扱っても壊れず長持ちする。
奴隷として、玩具として。
竜族は、最高の商品なのだ。
「密売組織っ……私をアリシャリから買いに来た人って、そういう人だったんですね……」
そうであった。
りこは、竜族の雌として捕らわれ、売買されるところだったのだ。
……あの場に居た術士は、元はブランジェーヌの雇った契約術士であったようだが…………赤の帝都を追放された後、導師と……それは偶然ではなかろう。
つまり、数十年以上の期間にわたり、青の大陸だけでなく赤の大陸での竜族の動きも、導師は常に監視しておったということだ。
黄と黒の大陸でも同様だろう……ずいぶんと気が長く、執念深い…………導師とやらは、よほど暇なのだろうか?
「姫さんに輪止を使って声を奪ったあの馬鹿は、うちの契約術士だったんだけどさ。図に乗りやがってムカついたから、術式の発動に必要な基点を潰してここから捨ててやったんだ。……そういや、カイユ。新しい契約術士の面接があるって、母さんが言ってたよな?」
「ええ、確かにそう仰っていたわ」
「赤の大陸じゃ、竜帝に雇われてもいいって術士は希だ。それに星持ちクラスしか雇わねぇから、なかなか見つからねぇ。面接って事はスカウトしてきたんじゃなく、自分から売り込んできたってことか? そんな術士、初めてだな……そいつ、大丈夫なのか? ……ん~、久々に俺が"お試し”してみるか……」
"お試し”?
ああ、術士が使えるかを確認するのか。
ダルフェは以前、その"お試し”相手の情報を得るためだとか言い、ゲルドルフ公国の娼館にドラーデヒュンデベルグ帝国の軍人と詐称して逗留しておったな。
ダルフェが身を偽る時は、目立つ赤い髪を染め粉で変えていた……我は借りた本を返しにそこに転移しただけであって、女共を侍らせていたダルフェと違いなんらやましいことはないのだ。
りこよ、我は金で女を借ったことなどただの一度もないぞ!
我は常に無一文なのだから!
だが、取りあえず。
この件は、りこには内緒なのだ。
「ダルフェ、赤の竜帝さんは契約術士さんを募集中なんですね?」
「俺があの馬鹿をポイ捨てした後、後釜が決まらなくてずーっと募集中なんだ。給料はそこいらの王侯貴族に負けないくらい出すし、退職金もはずむ。でも、難しいんだよな~……まぁ、俺が悪いんだけどな」
「え? ダルフェが悪いって、どういうことなんですか?」
ダルフェはまったく悪いと思っていないとしかとれぬ、愉快げな表情で言った。
「術士を殺し過ぎて、術士協会から何度も警告くらってんだよ、俺。術士ってのは貴重だから、基本的には生きて捕らえ、協会に引き渡して更正を試みるってのが赤の大陸の術士協会では決まって……あれ?」
ダルフェの視線が、動き。
一点で、止まった。
「こっちに走ってくるあの丸い物体っ……もしかして、研ぎ師のマーサおばちゃんかっ!?」
ダルフェの視線を追い、カイユもりこもそちらへと顔を向けた。
我は"研ぎ師のマーサおばちゃん”に興味はなかったが。
数秒遅れたが、我も皆を真似て"研ぎ師のマーサおばちゃん”を見た。
うむ、これが団体行動ということなのだろう。
「マーサおばちゃん! 久しぶりだな!」
「青の大陸から帰って来たダルフェが、嫁さんとヴェルヴァイド様と奥方様を連れて街に来てるって、金物屋のイシンが教えてくれたんだよ! お帰り、ダルフェ!」
街の方からダルフェめがけて駆けてきたのは、竜族の雌だった。
中高年期の雌竜で、樽のように肥えていた。