四竜帝の大陸【赤の大陸編】
第四十二話
真紅の横断幕に書かれていたその文字を。

「………………………………………………ざっ」

 言葉にして口から出す勇気は、俺には無かった。

「…………………………………ざけんなっ、あのクソばばぁあああああ!!」


※※※※※※※※※※


 俺は旦那達と城門で別れ、赤の竜帝の執務室へと駆け出した。
 この城は、勝手知ったる俺の実家だ。
 迷うことなく、最短ルートを激走した。
 途中すれ違った奴等の妙に生ぬる~い、労るような視線が痛かった……。

「おい、このクソばっ……陛下!」 

 ノックもせずに、官能的なラインを持つ花々が彫られた木製の扉を押し開き。
 俺は、執務室に突入した。

「あれ・・は、どういうことなんですか!? 陛下!」

 執務室は母さんの仕事場だ。
 ここでは母さんは、母さんでもクソばばあでもなく四竜帝……赤の竜帝陛下、だ。

「あら? お帰りなさい、ダルフェ。美味しいお菓子があるから、食べていきなさい」

 露出過多なドレスを着て、ソファーに座っていた赤の竜帝は。

「菓子は要りません! 陛下、横断幕の即時撤去を要求しますっ!!」

 執務机を両手で叩いて言った俺に。

「…………陛下? ダルフェ。私と貴方しかいないんだから、ママでいいわよ?」

 艶やかな赤い唇に笑みを浮かべ、言った。

「はぁ!? ママなんて、生まれてこのかた呼んだことねぇよ!」
「うふふふっ。そういうことにしといてあげるわね……さっき、クソばばあって言いかけてなかった? あら~、やだわ~、また反抗期なの? いい歳してみっともないわよ、ダッ君」
「反抗期じゃねぇ! 誰のせいだよ!? ったく……母さん、ふざけるのはやめてくれよ!」
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