四竜帝の大陸【赤の大陸編】
俺は、<色持ち>で短命な俺につがいを得させようとする母親に反発し、距離をおこうとした時期があった。反抗期……あの頃は口だけの言い合いだけじゃ済まなくて、意識がなくなるまでボコられたこともあったな~。
母さんは雌竜だけど、四竜帝だけあって恐ろしく強い。
俺は未だに、全戦全敗だ。
「…………赤の竜騎士の制服、やっぱりとても似合うわ。電鏡の向こうで青の竜騎士姿の貴方を初めて見た時は、さすがに少し複雑だったのよ?」
赤い爪を持つ指で髪をかき上げながら、母さんは眼を細め……俺を見上げて、そう言った。
「………でも、あれも似合ってただろ? あんたの息子はこの通り男前だから、赤でも青でも似合っちまうんだよ」
「ふふ、そうね」
母さんは四竜帝でありながら、"母”であることを優先してきた。
<色持ち>で短命な俺を、少しでも危険から遠ざけようと竜騎士団に所属することもなかなか許してくれなかった。
竜騎士は竜族にとって、防衛と攻撃の貴重な"手駒”だ。
一人でも多く必要なのに、母さんは俺を竜騎士として扱うことを拒んだ。
そのことで当時の黄の竜帝と、竜帝のありようについて揉めて……俺は竜騎士団に入りたかったから、黒の爺さんに母さんの説得を頼んだ。
黒の爺さんのおかげで、俺は竜騎士団に正式に入団し…………竜騎士は基本的に実力主義だから、数年後には団長に就任していた。
自分が親になった今、母さんと衝突してばかりだったあの頃のことを思い返すと……申し訳なさと同時に、感謝の気持ちが込み上げる。
…………でもな、それとこれは別問題だ!
「話しをすり替えるなよ! あれ・・は何なんだよ!? マーサおばちゃんが知ってたことは、母さんがひよこ亭に顔を出す前には城門に設置してあったってことだろう!?」
「え~、あれ・・って? 何かあったかしら?」
「しらっばくれんな! 横断幕にあった"ダッ君杯”って何なんだよ!?」
もはやあれは、公開羞恥プレイだろーがっ!?
「うふふっ……あぁ、いいわ~、その顔。ダルフェは怒り顔も本当に可愛いわ! もっと虐めっ……可愛がってあげたくなっちゃう」
出た、出ましたよ!
この真性ドSめっ!
「俺はカイユ限定のドMなんだよ!」
「ああ~、なんてこと! 可愛い息子に、堂々とドM宣言されるなんてっ!」
「嬉しそうに言うな! ……ちなみに旦那も、嫁限定ドMだな。肉を噛み千切るほど噛んでくれっておねだりして、姫さんにドン引きされちまってさ~。いじけて大変だったこともあるんだぜ?」
「……ヴェルが!? あらあら、トリィさんも大変ね」
「うん、旦那の相手は大変だ。あの子は頑張ってるよ……異界に残してきた家族のことも色々気になるだろうに、旦那のことを思ってほとんどそういったことは言わないんだ」
「それが賢明だわ。異界に未練があるそぶりをヴェルに見せたりしたら、監禁されかねないもの」
「監禁されたって、あの子は旦那を怒ったりしないよ……異界にいるあの子の親、死にものぐるいで娘を探してるんだろうな……俺だって、ジリギエが消えたら探しまくるっ……」
もし、ジリギエに何かあったら……俺があいつを守ってやれる時間は、そう長くない。
「ダルフェ……」
「……なぁ、母さん。親って、こんなにも子供のことを愛せるんだな……俺、愛されてたんだな……」
俺は母さんの向かいのソファーに腰を下ろし、背もたれに腕をかけて天井へと眼を向けた。
そこには、少々派手なシャンデリア。
俺が初めての給料で、母さんへ贈ったシャンデリアだった。
ことあるごとに母さんと揉めていた当時の俺は、身に付ける物を贈るのはなんとなく気恥ずかしくて……執務室の照明器具を壊しちまったから(ここで母さんと揉めて、天井に蹴り飛ばされてぶっ壊した)買ったんだって言って、押し付けたシャンデリアだった。
赤の竜族の誰よりも華やかな母さんには、派手なくらいがいいかなと……まぁ、思ってたより高額で、金が足りなくて月賦で買ったんだけどな……俺、所詮は"箱入りお坊ちゃま”で、物の値段とかよく分かってなかったし。
父さんには、包丁を贈った。
墓まで持ってくって、すっげぇ喜んでくれたっけな~。
今日も使ってくれていた……。
「……私がダッ君杯って、言い出したんじゃないのよ?」
「え?」
視線を目の前に戻すと、苦笑する母さんの姿があった。
母さんは雌竜だけど、四竜帝だけあって恐ろしく強い。
俺は未だに、全戦全敗だ。
「…………赤の竜騎士の制服、やっぱりとても似合うわ。電鏡の向こうで青の竜騎士姿の貴方を初めて見た時は、さすがに少し複雑だったのよ?」
赤い爪を持つ指で髪をかき上げながら、母さんは眼を細め……俺を見上げて、そう言った。
「………でも、あれも似合ってただろ? あんたの息子はこの通り男前だから、赤でも青でも似合っちまうんだよ」
「ふふ、そうね」
母さんは四竜帝でありながら、"母”であることを優先してきた。
<色持ち>で短命な俺を、少しでも危険から遠ざけようと竜騎士団に所属することもなかなか許してくれなかった。
竜騎士は竜族にとって、防衛と攻撃の貴重な"手駒”だ。
一人でも多く必要なのに、母さんは俺を竜騎士として扱うことを拒んだ。
そのことで当時の黄の竜帝と、竜帝のありようについて揉めて……俺は竜騎士団に入りたかったから、黒の爺さんに母さんの説得を頼んだ。
黒の爺さんのおかげで、俺は竜騎士団に正式に入団し…………竜騎士は基本的に実力主義だから、数年後には団長に就任していた。
自分が親になった今、母さんと衝突してばかりだったあの頃のことを思い返すと……申し訳なさと同時に、感謝の気持ちが込み上げる。
…………でもな、それとこれは別問題だ!
「話しをすり替えるなよ! あれ・・は何なんだよ!? マーサおばちゃんが知ってたことは、母さんがひよこ亭に顔を出す前には城門に設置してあったってことだろう!?」
「え~、あれ・・って? 何かあったかしら?」
「しらっばくれんな! 横断幕にあった"ダッ君杯”って何なんだよ!?」
もはやあれは、公開羞恥プレイだろーがっ!?
「うふふっ……あぁ、いいわ~、その顔。ダルフェは怒り顔も本当に可愛いわ! もっと虐めっ……可愛がってあげたくなっちゃう」
出た、出ましたよ!
この真性ドSめっ!
「俺はカイユ限定のドMなんだよ!」
「ああ~、なんてこと! 可愛い息子に、堂々とドM宣言されるなんてっ!」
「嬉しそうに言うな! ……ちなみに旦那も、嫁限定ドMだな。肉を噛み千切るほど噛んでくれっておねだりして、姫さんにドン引きされちまってさ~。いじけて大変だったこともあるんだぜ?」
「……ヴェルが!? あらあら、トリィさんも大変ね」
「うん、旦那の相手は大変だ。あの子は頑張ってるよ……異界に残してきた家族のことも色々気になるだろうに、旦那のことを思ってほとんどそういったことは言わないんだ」
「それが賢明だわ。異界に未練があるそぶりをヴェルに見せたりしたら、監禁されかねないもの」
「監禁されたって、あの子は旦那を怒ったりしないよ……異界にいるあの子の親、死にものぐるいで娘を探してるんだろうな……俺だって、ジリギエが消えたら探しまくるっ……」
もし、ジリギエに何かあったら……俺があいつを守ってやれる時間は、そう長くない。
「ダルフェ……」
「……なぁ、母さん。親って、こんなにも子供のことを愛せるんだな……俺、愛されてたんだな……」
俺は母さんの向かいのソファーに腰を下ろし、背もたれに腕をかけて天井へと眼を向けた。
そこには、少々派手なシャンデリア。
俺が初めての給料で、母さんへ贈ったシャンデリアだった。
ことあるごとに母さんと揉めていた当時の俺は、身に付ける物を贈るのはなんとなく気恥ずかしくて……執務室の照明器具を壊しちまったから(ここで母さんと揉めて、天井に蹴り飛ばされてぶっ壊した)買ったんだって言って、押し付けたシャンデリアだった。
赤の竜族の誰よりも華やかな母さんには、派手なくらいがいいかなと……まぁ、思ってたより高額で、金が足りなくて月賦で買ったんだけどな……俺、所詮は"箱入りお坊ちゃま”で、物の値段とかよく分かってなかったし。
父さんには、包丁を贈った。
墓まで持ってくって、すっげぇ喜んでくれたっけな~。
今日も使ってくれていた……。
「……私がダッ君杯って、言い出したんじゃないのよ?」
「え?」
視線を目の前に戻すと、苦笑する母さんの姿があった。