四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「昨夜、エルゲリストが言ったの。一族の皆が貴方の帰りを……独り身だった貴方がつがいと出会い、息子を得たことをとても喜んでくれているから、ダッ君杯が良いって……エルゲリストが、そう言ったのよ」
「父さんが?」
「そう、エルゲリストが。あの人、本当にいくつになっても純粋で……優しい人だから。怒らないであげてね?」
「……俺だって、そんなことは分かってる。父さんには、こんなことで怒ったりしねぇよ」

 母さんは、知ってる。
 俺が、父さんには強く出られないってことを。

「……仕方ねぇな。ダッ君杯で良いよ。それで進めてくれ」
「ありがとう、ダルフェ」

 俺の父親、エルゲリストは普通の竜族だ。
 温和で争いを好まず、のんびりした性格で……優しい。
 父さんは<色持ち>で竜騎士の俺が軽く殴っただけで骨が折れ、大怪我しちまう。
 ……餓鬼の時、些細なことで癇癪をおこした俺は。
 宥めようとした父さんを………気付いたら、眼の前で父さんが倒れていた。
 俺の拳には、父さんの血がついていて。
 父さんの左腕は、有り得ない方向へと曲がっていた。
 自分のしでかしたことが怖くて、泣き出した俺を。
 鼻からも口からも出血して、顔面が真っ赤になった父さんが。
 元の顔が分からないほど腫れ上がってるのに、ふわりと笑って。

 ーーごめんね、ダッ君。パパが弱いから……こんなになっちゃって、怖いよね? 泣かないで、ダッ君……ダッ君がこんなに強くて元気で、パパは嬉しいよ……大好きだよ、ダッ君はパパの宝物だ。

 折れてない右腕で髪を撫で、抱きしめてくれた……以来、俺にとって父さんは"護るべき者”だ。

「あ、そうだ」
「ダルフェ?」
「旦那が武闘会に出たいって言ってるんだけど?」
「なんですって!?」

 俺の言葉に。
 赤い両眼が驚きに見開いた。
 うん、やっぱそうなるよな~。
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