四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「ヴェルヴァイドが武闘会に!? ……ヴェルが出場するなんて、観客にはこれ以上はないほど受けるわね……でも、死人が出るのは困るから却下だわ」

 だよな、うん。
 でも、今までの旦那とは違うんだぜ?

「その点は安心していい。旦那は姫さんが見てる前では殺しはやんねぇから、死人はでねぇよ」
「駄目。死ななくても、確実に怪我人が出てしまうでしょう?」
「ルールは俺から話しておいた。出血させたら負けだって、旦那はちゃんと分かってる」
「あの人なら出血させずに殺すのなんて簡単よ?」
「だ~か~ら~、旦那は殺さないって! 俺がちゃんと面倒見るから、出させてやってくれよ!」
「…………昔から、貴方はいつだってヴェルの味方だったものね。分かったわ、そこまで言うなら許可しましょう。でも、ヴェルはなぜ武闘会に出たいのかしら?」
「ん? そういやそうだな……花祭りのダンスは姫さんと一緒にできることだったから乗り気だったけど、今回はそうじゃないもんな……」

 わざわざ武闘会になんか出なくても、舞踏会があるから姫さんと一緒に楽しめる。
 なんで武闘会になんか、興味を持ったんだ?
 旦那は姫さんとつがいになってからは、確かに色んな事に興味を持つようになったが……。
 姫さんを喜ばせたくていろいろ勉強っつーか、努力してるし。
 旦那は武闘会に出たら姫さんが喜ぶとでも、考えたのかもしれねぇな。

「まぁ、貴方が面倒を見てくれるなら安心ね。対戦相手、どうしようかしら? 普通の竜族とは無理だし、赤の竜騎士も厳しいと思うわ。貴方と違って、あの子達はヴェルには全く免疫が無い。対峙した途端、蛇に睨まれた蛙状態になる可能性が高い。竜騎士のそんな無様な姿を、一族の皆に晒すのは避けたいわ……」
「そうだよな~……特別枠参加って事で、旦那は俺とだけ対戦してもらうよ」

 うん、それが良い。
 旦那が相手なら手加減しなくていいから、俺も楽だしな。
 手加減無くできるなんて、すげぇ楽しそうだ。
 模造刀じゃなくて、真剣でやりてぇ!

「……嬉しそうな顔して。そういえば、ダルフェ。ヴェルヴァイドと手合わせをしたことはあるの?」
「俺? ないけど?」

 ボコられることはよくあるけど、あんなのは俺にとってもじゃれてる程度だ。
 ちゃんとした手合わせ的なものは、したことがねぇな。

「実は、私もないのよね……」
「母さんも?」

 母さんは、青の陛下と違って武闘派だからな。
 鞭を好んで使ってるが、刀も槍も弓も使いこなす……。

「ええ。ヴェルが模擬戦の相手になってくれたことなんて、一度もないわ。……考えてみたら、あの人が剣や刀を持ち歩いてるのを、一度も見たことがないもの」
「武具を持つ必要がねぇからだろ?」

 旦那は術式が使えるし、素手でも洒落になんねぇほど強い……技術うんぬんっていうより、身体能力とパワーが違うからな。

「そう、ヴェルは必要ないから刀は使わない。だから、今までまともに使ったことなんてないんじゃないかしら?」

 確かに、言われてみりゃそうか……。

「ヴェルって、刀をちゃんと扱えるのかしら? できなかったら、相手をする貴方が危険だわ……大怪我どころか、ヴェルのうっかりミスであの世へ直行よ? あの人、基本的には不器用で大雑把だもの」

 不器用で大雑把……。
 模造刀でも、あのパワーで"うっかりミス”をやられたら……うん、死ぬ。
 確実に。
 吐血の頻度があがって再生能力が落ちている、今のこの身体じゃ死ぬな。

「……………………後で、旦那に確認しておくよ」

 ダッ君杯まで、あと五日か……。
 まぁ、何とかなる………………よな?

 何とかしねぇと、俺が死ぬ。

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