四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「……まさか……」
「ねぇねぇ、そんなことよりさぁあああ!」

胸糞悪いことこの上ない甲高い声に思考を邪魔されたのはともかく。

「………………あぁ? てめぇ、“そんなこと”じゃぁねえよ」

僕にとっての最も重要な事を“そんなこと”?
本当に、最高にムカツク術士だ。

「ねぇねぇ! やあぁああ~っと、見つけたぁああねぇえ! ヴェルヴァイド、お嫁さん見つけたねぇええええ!」
「それが、なに? 君があの人のつがいになりたかったのかい?」

僕がそう言うと、導師(イマーム)は釣り上がっていた眼を一気に下げた。

「うっひゃひゃひゃ~! ええぇええ~!? そんなわけないでしょ!? あひゃひゃひゃ! この世界にはぁああ、居なかったけどぉおおお! やあぁああっとぉおお、見つかったねぇえええ!」

床を両足でばたばと踏み、左右の腕をぐるぐると回したかと思うと……前屈みになって、大声で笑い続ける。

「あひゃひゃひゃっ! あひゃひゃぁああああ! ヴェルヴァイドは、あの子に竜珠をあげちゃったんだよねぇえええ! あひゃひゃひゃっ……くっ……くくくっ」

振り回していた手が、その動きを止めた。 
両腕はだらりと垂れ下がり、前屈みのまま顔だけ上向く。
耳まで裂けているのではと錯覚しそうなほど、両の口角が持ち上がっていた。


「私は待っていた。ずっと」


鮫のような歯が剥き出しになったその口から出たのは、先程までの異様な口調でも甲高い声音でもない。
それは性別も年齢も判らぬほど、嗄れた声だった。
声そのものに年月による皺が刻み込まれ、枯れて乾ききっているような……。
その声が、告げた。


「『とりい・りこ』からなら、私は奪える」


僕は。
僕等は、知る。
導師は、僕等竜族だけの敵じゃないってことを。

「なっ!?」

とりい・りこ。
異界の娘。
その存在は、この世界を支える脆い柱。
彼女という支えを失ったら……!

「……くっ……くくくっ……あひゃひゃひゃぁあああ! あの異界人もぱぱっぱ~っと開いて、ヴェルヴァイドの竜珠もらっちゃおぉおおおお~っと!!」
「っ!?」

ああ、こいつが。
導師が導くのは。

「そしたらぁあああさぁああ! ヴェルヴァイドは狂っちゃうだろうねぇええ!? あひゃっ、あひゃあひゃひゃひゃひゃぁあああああ!!」


最強最凶の竜による。


世界の終焉だ。



 
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