四竜帝の大陸【赤の大陸編】

天に哂い地に吼える 4

「…………駄目だ」

愛しい人を失った、最強最凶の竜による世界の終焉?

「あの子が死んだら、僕の可愛いカイユが泣いてしまうじゃないか」

あの異界の娘が、<監視者>の竜珠を得る目的のために身体を裂かれて死んだら。

「僕の娘を苛める奴は、泣かせる奴は」

<監視者>はこの世界を見捨てるだろう。
愛しい娘と孫の生きる、この世界を<監視者>はきっと壊してしまう。

「殺す」

ミルミラを殺した術士の居場所を、行方の手がかりを導師から得たかったけれど。
 僕は、僕の娘ために導師を一秒たりとも生かしておきたくなかった。
 僕が奴の頭を落とすつもりで薙いだ刃は、完璧な踏み込みだったはずなのに。

「!?」

この僕が。
仕留める気で刀を振るったのに。
導師(イマーム)には届かなかった。

「ッ!」

光円状の障壁に、僕の切っ先が埋まっていた。
僕が刀を掴む手をひねると、それは暖炉の火が小さく爆ぜるような音とともに消える。

「……へぇ。障壁じゃなく、捕縛系の……かな?」

消えた。
それは、僕の右腕を道連れにして消えていた。
切断面からは高熱で焼かれた時のような、異臭。

「久々に……しくじっちゃったな」
「あひゃひゃひゃひゃぁあああ! 意外にうっかりさんだねぇえええ、銀の竜ぅううう!」

後方に跳び、導師と距離をとった僕を哂うその左手には僕の腕。

「へぇえええ、いい刀使ってるんだねぇえええ! これってあの天才鍛師インヴァ=イングのじゃぁああああないのぉおおおお? 国宝級のすごいの持ってるじゃぁああああん!」

国宝級のすごいのと言いながら、まるで塵でも捨てるかのように。
導師は僕の腕ごと、刀を無造作に放り投げた。

「……それを誰が作ったかどうかなんて、僕は知らないよ」

もうとっくに寿命で死んでる製作者が天才だろうが阿呆だろうが、僕は興味が無い。
誰が作ったなんて、気にしたこともなかった。
もういない、僕の<主>がくれた刀ということだけで十分なのだから。


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