四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「セレスティス殿っ!?」 

僕は残っていた左腕で、導師の術式を正面から殴りつけた。
術の『力』より僕の『力』が勝り、術式は壊れた。

「あれぇえええ? 銀の竜ったらずいぶん優しいんだねぇえええ! あひゃひゃひゃっ! いいざまだなねええ!」
「……くっ……!」

僕の左腕は。

「セレスティス殿……なぜ私をかばったのですか?」

術式を殴りつけた瞬間、拳から肩まで縦に裂けて……散った。

「君は、僕にとっ……て、利用価値がっ……ある人間だからね」

僕の中にあった血液が、あるはずの無い場所に新しい出口を見つけて我先にと噴出していた。
右腕は高熱で焼き切られたような状態だったから、その焦げ付いた肉からの出血量は刃物で切断されたと場合とは比べようも無いほど少なかった。
左腕は、違った。
裂かれて飛んだ肉片。
砕けて散った骨。
笑っちゃうくらい勢い良く、持ち主の体から去っていく血液。
これで即意識を失うほどやわじゃないけれど。
失った分の血液を、肉を、骨を作りなおそうと体の内部が蠢いて外へ向ける『力』を奪う。

「あひゃひゃやひゃぁあああ! 両腕無いんじゃ、もう刀持てないよね? 刀使えない竜騎士なんか、生きてる価値ないんじゃないの? あ、そっかぁああ! ここで死ぬんだからいいのかぁあああ!」

空間を掻き混ぜるかのように、左右の手で導師が円を描くと。
投げ捨てられていた僕の腕が、掴んだままの刀と共に石の床の上で動き始めた。



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