四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「あーひゃひゃぁああ! かわいそうだからぁああ、返してあげるぅううう!」

それは床を這って進み、僕の足元で止まる。
屋上の床に、刃が歪んだ線のような傷を残した。
あぁ、まったくなんて雑な扱いだ。
石の床を引きずられて、刃こぼれしてしまったかもしれないな。

「かわいそう……なのは。君だよ、導師」

僕の血肉の撒かれた床を進んできたせいで、導師を斬る前に刀は血に汚れてしまった。
この刀が持ち主である僕の血を吸うのは、あの時以来だ。
ミルミラの魂を追って、黄泉に行こうとした時以来だ。

「あぁあああ~ん? なんだってぇええぇえええ?」

導師は顎を突き出すようにして、唇をぐにゃりと曲げた。
僕はそれを見て、微笑まずにはいられなかった。

「なぁああに笑ってんのぉおお? お前のその顔、ムカツクなぁあああ」
「ふふっ……教えてあげるよ」

少女の目鼻……顔をつくる部品の一つ一つは、芸術品のように美しいのに。
その美しさを覆い尽くす、滲み出る狂気。

「抱きしめる相手のいない腕なんて」

導師、お前はなぜ。
<監視者>ではなく、<ヴェルヴァイド>とあの人を呼ぶ?

「無くなっても、痛くも痒くもないんだよ?」

そこにあるのは。

「ああ、そうか……君は誰かを抱きしめたいんじゃない」
「あぁ?」
「抱きしめて、欲しいんだろう?」

その執着の中にあるのは……。

「ふふっ……君って憐れ、だねぇ」
「…………なぁああああんだってぇええええっ! わかったようなこと言うんじゃないよ! この大蜥蜴野郎がぁああ! てめぇの竜珠なんかいらないぃいいい! 殺す、殺す、殺すぞぉおおおおお……ぉおおおお?」

手に入れられぬなら。
壊したいのほど、の……。



「ぐがぁぎゃぁああああああああああ!!」



「手が無くても、足がある」

落とした踵は、脳天を割ってそのまま下半身を通過した。

「ッ……やっぱりそうかっ!!」

砕ける感触は脆く、乾いていた。

「こいつは、自動人形(オートマータ)だっ!!」

壊れた導師の【器】は、僕の思った通り。
『人間』ではなかった。



< 24 / 177 >

この作品をシェア

pagetop