四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「……はぁ、ちょっと疲れたな。孫持ちのじーさんは、座らせてもらいます」
僕は石の床に腰を下ろし、おった右膝に顎を乗せた。
バイロイトと合流したいけれど、幼竜達に今の僕が姿を見せるのは……あの子達は普通の竜族だから、両腕無しの血塗れの僕にショックを受けるだろう。
外套を羽織って、ごまかせ……う~ん、無理かな?
「両腕無くなって“ちょっと疲れた”だけの貴方に、じーさんを名乗る資格はありません。城内でキラキラした王子様をやっている貴方が、こんな時だけじーさんを使用するのは却下です。……それになんですかっ、あの超高速踵落としはっ!? あのような速さで動けるなら、最初からそうしてください」
僕の首から引き抜いたタイで止血しようとしたクロムウェルを、手で追い払いながら抗議した。
「対人間じゃ駄目だったから、竜騎士用速度に変えたんだ。最初はその必要を感じなかったからね……あ、でもあの程度じゃ婿殿には当たらないよ? そんなことより、僕は君を庇ってあげたんだからもっと感謝しなさい」
僕のこの身体は、この程度の負傷なら出血はじきにおさまることを、僕は今までの経験で知っている。
止血は必要ない。
「感謝? 利用価値が云々ってことは、私は今後貴方に徹底的に『利用』されるってことですからしません」
軽口を交わす僕等に戻ってきたのは、静寂ではなく。
首都の中心に位置するこの街の喧騒。
下の通りで騒ぐ酔っ払いの怒鳴り声、馬車の車輪が石畳を駆ける音。
ありふれた日々の、昨日も今日も明日も繰り返されるそれら……。
「セレスティス殿、これはなんなのですか? まるで壊れたビスクドールのようです。私の目には生きた人間のように見えていましたが……幻術系の術式だとしたら、規格外の術の精度です」
障壁を下げ、術式を解いたクロムウェルは、目の前にある導師だったモノの一つを拾って言った。
縦半分になったそれは大小の破片となっていたが、裂かれたワンピースがそれらが広範囲に飛散するのを防いでいた。
「僕にも人間に見えてたよ、途中まではね」
僕の足元には、ひびの入った義眼が転がっていた。
自動人形は<黒の大陸>でしか作られていない。
もとは観賞用の、陶器製の人形がその原点だ。
「途中、というと……右腕を失った時ですか?」
「そうだよ。あれはとても“おかしかった”から。それにね、近づいても“生き物の匂い”がしなかったんだ」
僕が自動人形(オートマータ)を知っていたのは、先代陛下が生きていた頃に大型伝鏡越しに見せられていたからだ。
「匂い? ですか」
「うん、匂い。なんて言ったらいいかな……動物も植物も、命あるモノには“命の匂い”を感じるんだ。でも、それが無かった」
僕は石の床に腰を下ろし、おった右膝に顎を乗せた。
バイロイトと合流したいけれど、幼竜達に今の僕が姿を見せるのは……あの子達は普通の竜族だから、両腕無しの血塗れの僕にショックを受けるだろう。
外套を羽織って、ごまかせ……う~ん、無理かな?
「両腕無くなって“ちょっと疲れた”だけの貴方に、じーさんを名乗る資格はありません。城内でキラキラした王子様をやっている貴方が、こんな時だけじーさんを使用するのは却下です。……それになんですかっ、あの超高速踵落としはっ!? あのような速さで動けるなら、最初からそうしてください」
僕の首から引き抜いたタイで止血しようとしたクロムウェルを、手で追い払いながら抗議した。
「対人間じゃ駄目だったから、竜騎士用速度に変えたんだ。最初はその必要を感じなかったからね……あ、でもあの程度じゃ婿殿には当たらないよ? そんなことより、僕は君を庇ってあげたんだからもっと感謝しなさい」
僕のこの身体は、この程度の負傷なら出血はじきにおさまることを、僕は今までの経験で知っている。
止血は必要ない。
「感謝? 利用価値が云々ってことは、私は今後貴方に徹底的に『利用』されるってことですからしません」
軽口を交わす僕等に戻ってきたのは、静寂ではなく。
首都の中心に位置するこの街の喧騒。
下の通りで騒ぐ酔っ払いの怒鳴り声、馬車の車輪が石畳を駆ける音。
ありふれた日々の、昨日も今日も明日も繰り返されるそれら……。
「セレスティス殿、これはなんなのですか? まるで壊れたビスクドールのようです。私の目には生きた人間のように見えていましたが……幻術系の術式だとしたら、規格外の術の精度です」
障壁を下げ、術式を解いたクロムウェルは、目の前にある導師だったモノの一つを拾って言った。
縦半分になったそれは大小の破片となっていたが、裂かれたワンピースがそれらが広範囲に飛散するのを防いでいた。
「僕にも人間に見えてたよ、途中まではね」
僕の足元には、ひびの入った義眼が転がっていた。
自動人形は<黒の大陸>でしか作られていない。
もとは観賞用の、陶器製の人形がその原点だ。
「途中、というと……右腕を失った時ですか?」
「そうだよ。あれはとても“おかしかった”から。それにね、近づいても“生き物の匂い”がしなかったんだ」
僕が自動人形(オートマータ)を知っていたのは、先代陛下が生きていた頃に大型伝鏡越しに見せられていたからだ。
「匂い? ですか」
「うん、匂い。なんて言ったらいいかな……動物も植物も、命あるモノには“命の匂い”を感じるんだ。でも、それが無かった」