四竜帝の大陸【赤の大陸編】
<黒の竜帝>が当時の陛下に、最新式の玩具だと見せていた。
前もって決められた決まった動きしかできないにしろ、金髪の少女を模した人形がぎこちないながらもステップを踏み舞う愛らしいさまに、陛下も目を細めて……。
あの頃はまだ、あの2人は良い友人関係だった。

「導師は自分の脳を“お持ち帰り”したいと、僕等竜族が考えているだろうと思ったんだろうね……まさか二百年以上前の、陶器製の自動人形を導師が使うなんて。こんな高度な遠隔操作の幻影系の術式があるなんて、詐欺みたいだ」

クロムウェルは興味深げに、壊れた人形を手に取り調べ始めた。
自動人形の内部には大小の歯車が幾つもあり、さまざまな螺子や金属の部品が入っている……機械に疎い僕では、壁掛け時計の中身が複数詰まっているようにしか見えない。
この筋肉ダルマ術士もその仕組みに興味はあっても、それを見ただけでは理解できないのだろう。
太い首の上にある頭を右にぐぐっと倒して、考え込むようにしていた。

「これは……なんでしょう? この人形の内側には、小さなガラス玉のようなものが多数接着されています。色は様々ですが……どれも宝石のように美しい」

クロムウェルは躊躇い無く人形の上半身から敗れたワンピースを剥し、左胸下部分の一部を割り取って僕へと投げた。

「ん~……なんだろうね? 鉱物を加工したモノかな?」

膝の上に投げられたそれを、両腕が無いので顔を寄せ顎で触れて感触を確かめた。

「ッ!?」

小指の先ほどの小さなそれに触れると、触れた皮膚が一瞬だけ痛んだ。
一点を針で刺されたかのようなそれは……まるで、この小さな物体があげた悲鳴の様でもあった。

「クロムウェル……全部回収してね。どんな小さな欠片も一つも残さず、帝都に持って帰る。陛下だけじゃなく、黒の竜帝陛下にも見てもらったほうがいい」

感じた小さな痛みが、僕の中で影を生む。
不安感にも似た、なんとも嫌な……嫌な気分だ。
毒素や身体への害は感じないが……。

「貴方の右腕、どうしますか?」

小さな物体に同じように触れたはずのクロムウェルは、無反応だった。
僕と彼の違い……竜族と、人間?

「焼却処分していいよ。無くなった両腕の完全再生には20日間位はかかる……今の僕は竜体になっても、飛べない。ニングブックにでも迎えに来てもらおう」

腕が無い僕は、竜体になっても翼が無い。
竜体になったら、まさにただの大蜥蜴かもね……ん?
足音?
階下から、駆けて……。

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