四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「へぇ~? 親戚なの?」
「はい、面識はありませんが」

<青の竜帝陛下>の契約術士クロムウェル。
竜体になった僕が足で掴んで、帝都からメリルーシェの支店に連れて来てやった。

「大丈夫だよ、バイロイト。これは気にしないさ」
「セレスティス! 貴方はもう少し周りを気……クロムウェル?」

気障なダークカラーのストライプのスーツを着こなしているバイロイトの肩を、黒いシャツの袖を肘まで折り返している武人の手が軽く叩く。
黒や灰色は、この目でも比較的分かりやすい。
僕は明度で過去の記憶と結び、その色を推測する。

「支店長、その通りです。政略結婚で嫁いだ叔母が生んだという認識しかありませんから、全く気になりません。お好きにどうぞ、セレスティス殿」

そう言うながら、僕へと歩み寄る。

「僕にこれ以上近寄らないでくれる? 変態が感染ったら嫌だ」

彫りの深い顔立ちに、意思の強さを感じる太い眉。
髪を短く刈り上げているせいか、太い首に巻いた包帯が余計に目立った。
僕が適当に掴んで帝都から持ってきたから身体のあちこちを傷めたが、いつものことなのでこの男は文句一つ言わなかった。
アンデヴァリッド帝国の将軍の地位をあっけないほど簡単に捨て、<青の竜帝>の契約術士になった男。
美しい<青の竜帝>に恋した、憐れなほど幸せな男。

「変態は感染りません。……やはり親子ですね。セレスティス殿はカイユ殿と同じように仰る」

白髪の混じった髪が、この男の恋した期間を表していた。
陛下は出会った時と変わらず美しく、この男が土に還った後もその美しさは色褪せることはない。
先に逝くことが許されているこの男にとって、陛下は『永遠』の存在。

「うん」

僕がクロムウェルを嫌うのは。
その根っこは変態だからでも、人間だからでもなく。

「親子だからかな?」

僕もカイユも。

「似なくていいとこまで、“同じ”になっちゃったんだよね……」

クロムウェル。
僕達親子は。
君を。

愛しい者より、先に逝ける君を。

羨んでいるのかもしれない。







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