四竜帝の大陸【赤の大陸編】
ポケットから取り出して投げつけたそれは、びわのような果物だった。
見事に彼女の顔面に当たり、汁を飛ばしつつぐちゃっと潰れた。
熟れて、果肉がとても柔らかかったのかもしれない。

「なっ……なんてことするのよっ!? 長の孫だからって勝手ばかりっ……」

果肉で汚れた頬を拭って言う彼女を、少年は一喝した。

「黙れ! 族長であるおじいちゃんに内緒で竜族を捕まえてたなんて、こんなことが許されると思ってるわけ!?」
「……ッ」

オレンジ色の果肉と果汁にまみれた彼女は、息を呑み押し黙る。

「これは僕のにする。僕が飼う。竜族を捕まえてたことをおじいちゃんにばらされくなかったら、僕にこれを譲れってアリシャリに言っておけ! おばさん、分かった? 返事は!?」

すくっと立ち上がり、仁王立ちで鼻息荒く言う少年の背を私はあっけにとられて見ていた。
な、なんて気の強い……我侭っていうか、自己中っていうかっ……。
えっと、つまりこの子は私が竜族(違うけどっ、勘違いだけどっ!)っていうのを周囲に内緒にして“飼う”って言ってるわけ!?

「は……は、はい……ですが、その輪止……首輪は絶対に外さないでください。竜体に変化して暴れられたら、私達人間はとても敵いません。それに、仲間の元に飛んで逃げられてしまったら、大変なことになります……つがいの雄や竜帝の竜騎士が報復にっ……そんなことになったら一族が皆殺しにっ……」
「分かってる。あんたがさっき言ってたの聞いてたもん。外さないよ。そんなことより、さっさと服を持ってきてよ。これはお願いじゃない、命令なんだってこと分かってる?」
「……………畜生ッ!」


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