四竜帝の大陸【赤の大陸編】
ブランジェーヌ、当代赤の竜帝よ。
お前は、我を知らぬのだ。

お前の見た“冷静”など、この我のどこにも有りもしない。
あるのは。
我にあるのは……。

「ヴェルヴァイド。貴方が自分から口付けるのは、口付けたのは。後にも先にもトリィさんだけなのね……」
「そうだ」
「ふふっ、妬けるわね」
 
唇を。
我のそれと触れ合わせ。
ゆっくりと分かち、笑むブランジェーヌに。

「二度とするな。次はお前のその頭が飛ぶぞ?」

忠告ではなく、警告をする。

「……貴方って、意地悪よ」

我の身から離れ、数歩下がり。
ブランジェーヌはそう言って、我を責めた。

「まったく、最低で最高に酷い男ね」

まるで幼い時のように、口を尖らせ言うそのさまに。
強い意思の煌めく瞳に。

「我の、どこがだ?」 
「全部、よ」

我のことを“おっさん”と呼んだ幼竜の姿が重なる。

「私は夫を愛してる。でも、ずっと貴方に恋してきたわ」
「恋? お前の“それ”は、違うと思うが?」

この<赤>が幼竜だった頃。
小さな手が、震えながら我へと伸ばされ。
我の髪を、両手で掴んだあの日。

「……そんなことないわ」
「ならば。愛をとり、恋は捨てろ。お前のそれは不要で無用だ」

あの日。
あの時。
我は何を感じ、思ったのだろうか?




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