四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「こら。口が過ぎるよ、マーレジャル」

年長者らしく諌めの言葉を口にした雄だが。

「なんで? 他の竜騎士の皆だって、そう言ってたもの。団長だって青の陛下は駄目だって、そう思うでしょう?」
「いや、そんなことはないよ?」

どうやら、赤茶と同じ考えのようだった。


「…………竜騎士の“上下”は力で決まる」


呟きにしては芯が太く、気に満ちた声。
それはカイユのものだった。

「大陸が違えど、それは変わらないわよね?」

問われたのは、ダルフェ。
答えたのも、ダルフェ。
青の大陸に移る前は、ダルフェは赤の竜騎士の団長だった。

「ああ、そうだ。ん~、了解! カイユの好きにしていいぜ?」

やっと下半身に衣類を身に着けたダルフェが、背を伸ばし左右に動かしながら言った。
ダルフェは……我の見誤りの可能性もあるが。
今のダルフェにとって、大陸間を最高速で飛行するのは肉体への負担が大きいのかもしれぬな。
だから、カイユは一言も奴を責めなかったのだろう。
立ち上がり早く衣服を身につけろと、あの口煩いカイユが言わなかった。
ならば、我の試算は外れたな。
ダルフェに与えられた時間の残りは、我の思っていたものより短い可能性が高い……。

「貴方がダルフェの次の、現団長?」

カイユのそれは、問いではなく確認。
その顔に浮かぶのは、澄んだ泉のような笑み。

「はい。クルシェーミカと申します。ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません。はじめまして、カイユど……ぐがぁあっ!?」

クルシェーミカと名乗った赤の竜騎士が後頭部を強打する鈍い音が、朝の歌を唄う小さな鳥達から声を奪った。

「遅い」

晒された咽喉に。
カイユの左の踵が沈んでいた。

「なにするのよ!? 団長、団長っ!!」

見下ろす瞳は、父親と同じ空の色。
あれとこれの違いは、その温度。
父親の放棄した『熱』を、娘は抱いて離さない。





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