四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「シャデル。その蜥蜴女は俺が拾ったんだから俺のだ。俺が買い手を探しに遠出してる間に横取りしやがって……さっき帰ってきたら、お前が昨日“盗った”って知って吃驚したぜ」

私の視線を無視し、アリシャリはシャデル君にそう言いながら緩んでいたターバンを両手を使ってしっかりと巻き直してから、マスタード色の貫頭衣を着た初老の男性に向けて手招きをした。

「これがあんたに買ってもらいたい竜族の雌だ。蜥蜴女! こっちに来い。すぐに馬で出発するんだから、手間をとらせんなっ!」

重そうなお腹を揺らし、その人は『商品』である私を見る。
探るように……値踏みするかのような露骨な、嫌な視線だった。

「竜族の雌……小柄だな、本物なのか?」
「ああ、本物だ。あとで“これ”を使って証明してやる。すぐ、傷が塞がるんだぜ?」

アリシャリの日に焼けた手が、腰にある月のような曲線を持つ小ぶりな剣の柄へと移動した。
あれは、私の手を貫いた剣。
傷跡すらないそこが、あの時のことを思い出してズキンと痛んだ。

「黙れ、アリシャリ! 竜族売買は“危ない”から、族長であるお祖父ちゃんが禁止してるって知ってるだろ!?」

シャデル君は私の右手をぐっと掴み、怒鳴った。
相変わらず強気なシャデル君に、アリシャリは言った。

「あ~? はははっ! もう長なんか関係ねぇよ! だって伯父貴は、お前の“お祖父ちゃん”は死んだんだからなぁ!!」
「……え? なに言っ……」

固まったシャデル君を、愉快気に眺め。

「さっき、俺が殺した。簡単だったぜ? 信じられないなら、族長のテント覗いてこいよっ!」

愉しそうに言い、言葉を続けた。

「くくっ……あーはははっ! もっと早くこうしとけばよかったんだ! あの爺、いつだって俺を見下しやがって……はははっ、あはははっー! ざまぁみやがれ!! あぁ、笑いが止まらねぇよ!」
「アリシャリッ、お前っ……みんなも……みんなも殺したのかっ!? だから、誰もいなっ……」
「あ? 族長の糞爺以外は、こいつの術式で眠り込んでるだけだ。残念ながら一気に全員殺すなんて術式は、今のこいつにゃ不可能なんだとよ~」

アリシャリが、シャデル君のお祖父さんを殺した?
あの術士が、他の人達を術式で眠らせて……シャデル君が助けを求め声を上げても、誰も彼を助けてはくれないてこと!?

「……アリシャリッ、お前っ……お、おじいちゃっ……おじっ…ちゃ……」

私の腕を掴むシャデル君の手が震え。

「おじ……ちゃっ……」

力を無くし、離れた。




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