四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「シャデル、お前には死んでもらうぜ? 俺のしたことが一族にばれたら、八つ裂きにされちまうからな。俺は名前を変えて、新しい土地で生きることにするよ。いい相棒も見つかったしな~」
「ふん、相棒なんかじゃないさ。ただの雇用関係だ。お前のほうが族長より金を出すと言ったからな。その雌を売った金は半々だって約束を守れよ?」

目元以外は頭部も顔もターバンで隙間無く覆った術士の手には、細身の鎖と……あれって、手錠?
私に使う気!?

「わかってるって。さぁて、そろそろ……」

すらりと抜かれたアリシャリの刃に、朝陽が反射した。
三日月のような曲線を持つそれは、一部が汚れて……血?
まさか、シャデル君のお祖父ちゃんの!?

「……アリシャリッ……お前には、お前等なんかに絶対渡さないっ! 渡すもんかっ!!」

それを目にしたシャデル君は。
 
「なにしやがるっ!?やめろっ! シャデル!!」

両手を私の首へと伸ばし、首輪をっ……!

「竜になって! 早くっ!!」

私の首にあった輪止……首輪を地面に叩きつけたシャデルの手は、血塗れだった。
留め金部分を力任せに引いて無理やり外した時に、金属部分で指先を切ってしまったのかもしれない。
外されたそれと私を交互に見て、アリシャリが上ずった声をあげた。

「ま、まずい! シャデルめっ、輪止を外しやがった! おい、輪止の換えはねぇのかよ!?」
「あるわけないだろうが! 輪止は貴重品だぞ!」
「無ぇのかよっ!? やっぱお前は三流術士だ! 使えねぇっ!」
  
口論しながら彼らが私達から一気に後ずさって距離をとったのは、私が竜体になって攻撃してくると思ったのかもしれない。

「なにしてるのさっ!? 早く竜になってよ!!」

シャデル君が竜体にならない私を、竜体になれない私を責めるように叫ぶ。
だって、無理なの。

私は竜族じゃないから。
竜族じゃないから、竜体にはなれない。



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