四竜帝の大陸【赤の大陸編】
漆黒のブーツを履いた長い脚に合わせるように、真珠色の長い髪と赤い裾が動き。
マスタード色の塊が重力を無視し、放たれた弾丸のように上空へ突き進み消えた。
痛いほどの静寂が、この空間を包む。
張り詰めたこの静けさは、割れた硝子切っ先のように鋭く危うい。

「…………ハクちゃっ……ハクッ!」

私の声が、その空間に亀裂を入れた。
その亀裂が四方に広がり、糸の切れた操り人形ように術士とアリシャリが腰が砕けたかのように座り込む。
シャデル君は頭を両手で覆い、地面に丸くなって震えていた。

「ハク」 
「……」

緋色の背を純白の髪で飾り、私の前に立つ彼は。
背を、私に向けたままだった。
 
「ハク……ど、どうして? な……なんでなの?」

会えたら。
貴方に会えたら。
その腕で、その胸に。
抱きしめてくれると思ってた。
無事で良かった、会いたかったって、言ってくれると思っていたのに。

「ハク? あ……もしかして、お……怒ってるの? 私が無用心で……こんなことになっちゃったから……呆れちゃったの?」

私を守ってくれいてたカイユさんと貴方から離れて、あの皇女様に不用意に近づいた。
あの人が持ってきた携帯電話に夢中になって、浮かれて……遠く離れた赤の大陸に転移させられて……。
声が出なくて、貴方を呼べなかったこの数日間。
私が考えてる以上の多くの人が、行方不明になった私を探してくれたよね?
きっと、たくさんの人に迷惑をかけてしまった……。
貴方にも、カイユさん達にも、すごく心配させてしまった……。



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