四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「心配かけて、ごめんなさっ……ハク、ハクちゃっ……ご、ごめんなさい」
「……」

謝っても。 
ハクは振り向いてくれなかった、何も言ってくれなかった。
でも、でも。
私はその髪に、背に、体に触れたくて。
存在を、この手で確かめたくて。

「ハ、ハクッ……ハク、ハク!」

両手を伸ばした。

「…………足りぬ」
「え?」

指先がその髪に、背に届く寸前に。
伸ばした私の手が、強く握られ引き寄せられた。
胴に回された腕が私の身体を地面からすくい上げ、大きな右手が私の顎を掴んだ。

「さぁ、呼べ! この口で、我を、我の名を呼ぶのだっ!!」
「ッ!?」

5本の指が、痛みを伴い肌に食い込んでくる。
腰に回された腕の力が増し、まるで絞めあげられているかのようで……息をするのがやっとだった。

「なぜ、呼ばぬっ!? なぜ、我の名を呼ばなかったっ!?」

鼻先が触れ合うほど顔を寄せ、咆えるようにハクは言う。

「呼べっ! 呼ぶのだ!! 貴女が我に与えた名を呼べっ!!!」

爛々と燃える黄金の目が、内と外から叩き込まれた痛みに唇を動かせない私を容赦無く射抜いて責めた。

「なぜ、呼んでくれぬのだっ!? 貴女との約束を守れぬ我など、もういらぬのかっ!? ……傍に、ずっとそ……ばにっ……離れぬと、我は約束したのにっ……貴女を守れぬ不甲斐無い我など……我が……こんな我はっ……我はっ」

色素の薄いハクの唇に、深紅が滲む。
彼が強く唇を噛んだのだろう。

「血がっ……」

その痛々しい唇に、私が指先で触れると。 

「ッ!?」

ハクはびくりと全身を震わせた。
金の瞳の中央にある黒い糸のような瞳孔が伸縮を繰り返し……私の顎を掴んでいた手が瞳孔の動きに合わせるかのように震えだした。




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