四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「……はい。ですが、遺体の処遇については、陛下のご意見を求めるべきでは?」
「クロムウェル。後で陛下に僕が怒られたら、それで済む。この案で問題無しだよ」
もうこの件に関して話すことは無いという意味で、羽虫を追い払うように手を振った。
でも、羽虫じゃないクロムウェルは、それでは追い払えなかった。
「セレスティス殿。一言くらい、陛下に……」
「しつこいよ、クロムウェル」
指先で、男の右の目元に触れた。
「っ!?」
「君は……お前は人間だ」
僕から近寄り、触れたことに驚いたのか。
クロムウェルは言葉も動きも止めた。
「でも、陛下を愛しているよね?」
手袋をしてない僕の指先から。
その皮膚から伝わるのは。
老いに命を押されながら、自分で選び望んだ道を駆ける男の体温。
「分かるよ。愛しいと、この眼球が叫んでるから」
<青の竜帝>の美貌に囚われた愚か者と、竜族に魂を売った裏切り者だと人間共に罵られ蔑まれても。
この男は衆目の前で青の竜騎士の制服を喜んでその身に纏い、美しい主に跪く。
「恋に狂ったその目で陛下を見ているうちは、僕はお前を殺さない。利用価値がある限り、僕はお前を殺さない。だから、僕に従いなさい」
そうでなければ、お前を生かす理由が僕には無い。
お前に生きる価値は無い。
「……アンデヴァリッド帝国の将軍であったこの私を、簡単に殺せるとお思いで?」
鋭さを隠さぬ眼球が動き、僕を見上げる。
人間であるクロムウェルは、竜族である僕より少々背が低い。
身体の幅や厚みは、僕の倍はありそうだけど。
「うん。思ってる」
腹の底から押し出したような重い声に答える僕の声は、自分でも不思議なくらい上機嫌な軽い声音。
僕は、クロムウェルに触れていた指を離した。
「そうですか。私もそう思います」
クロムウェルは僕に触れられていた場所を、自分の太い指で何かを確かめるように数回なぞった。
会話の途中で僕の手を払いのけようとしたならば、僕はこいつの目玉を抉っていただろう。
「皇女の遺体については、貴方にお任せするとして。さきほどの電鏡の通話相手は、カイユ殿ですか?」
「うん。これから城を発つって言ってた。もうとっくに、海の上だね」
行方不明、そして生死不明の<監視者>のつがいを追い、カイユは赤の大陸へと向かった。
赤の大陸は婿殿の故郷だし、赤の竜帝陛下は彼の母親でもある。
カイユが向こうで衣食住に不自由することは無いだろうから、安心だ。
「カイユ殿、この大陸を出て行ってしまったんですね」
「うん」
「陛下も貴方も、寂しくなりますね」
クロムウェルの言葉に、僕は首をかしげてしまった。
「クロムウェル。後で陛下に僕が怒られたら、それで済む。この案で問題無しだよ」
もうこの件に関して話すことは無いという意味で、羽虫を追い払うように手を振った。
でも、羽虫じゃないクロムウェルは、それでは追い払えなかった。
「セレスティス殿。一言くらい、陛下に……」
「しつこいよ、クロムウェル」
指先で、男の右の目元に触れた。
「っ!?」
「君は……お前は人間だ」
僕から近寄り、触れたことに驚いたのか。
クロムウェルは言葉も動きも止めた。
「でも、陛下を愛しているよね?」
手袋をしてない僕の指先から。
その皮膚から伝わるのは。
老いに命を押されながら、自分で選び望んだ道を駆ける男の体温。
「分かるよ。愛しいと、この眼球が叫んでるから」
<青の竜帝>の美貌に囚われた愚か者と、竜族に魂を売った裏切り者だと人間共に罵られ蔑まれても。
この男は衆目の前で青の竜騎士の制服を喜んでその身に纏い、美しい主に跪く。
「恋に狂ったその目で陛下を見ているうちは、僕はお前を殺さない。利用価値がある限り、僕はお前を殺さない。だから、僕に従いなさい」
そうでなければ、お前を生かす理由が僕には無い。
お前に生きる価値は無い。
「……アンデヴァリッド帝国の将軍であったこの私を、簡単に殺せるとお思いで?」
鋭さを隠さぬ眼球が動き、僕を見上げる。
人間であるクロムウェルは、竜族である僕より少々背が低い。
身体の幅や厚みは、僕の倍はありそうだけど。
「うん。思ってる」
腹の底から押し出したような重い声に答える僕の声は、自分でも不思議なくらい上機嫌な軽い声音。
僕は、クロムウェルに触れていた指を離した。
「そうですか。私もそう思います」
クロムウェルは僕に触れられていた場所を、自分の太い指で何かを確かめるように数回なぞった。
会話の途中で僕の手を払いのけようとしたならば、僕はこいつの目玉を抉っていただろう。
「皇女の遺体については、貴方にお任せするとして。さきほどの電鏡の通話相手は、カイユ殿ですか?」
「うん。これから城を発つって言ってた。もうとっくに、海の上だね」
行方不明、そして生死不明の<監視者>のつがいを追い、カイユは赤の大陸へと向かった。
赤の大陸は婿殿の故郷だし、赤の竜帝陛下は彼の母親でもある。
カイユが向こうで衣食住に不自由することは無いだろうから、安心だ。
「カイユ殿、この大陸を出て行ってしまったんですね」
「うん」
「陛下も貴方も、寂しくなりますね」
クロムウェルの言葉に、僕は首をかしげてしまった。