四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「どうして寂しくなるの?」 
「セレスティス殿。貴方は娘であるカイユ殿やお孫さんに、いままでのようには会えなくなってしまうんですよ?」

ああ、なるほど。
そういう事か。

「寂しくないよ、僕」

僕は手を伸ばした。
空へ、宙へと指先を向ける。

「僕の娘も孫も。この世界で……天を飛び、大地を駆けて生きているんだから」

個人的な理由での大陸間飛行は、許可されていない。
許可されていないだけで、不可能なわけじゃない。

「同じ空の下で、僕等は生きている。この空は、愛しいあの子達に繋がっているんだ」

僕等竜族には、どこまでも飛んで行ける翼がある。
他の大陸は『会えない距離』じゃない。

「生きて笑っていてくれるんだから。互いの距離が離れても、僕は寂しくなんかないんだ」

どんなに願っても望んでも。
この世には『会えない距離』があるってことを。
それを、僕は知っているから。

「寂しくなんか、ないんだよ」

どんなに望んでも願っても。
ミルミラ、君には会えない。

「いい加減、起きなよ。暢気に寝すぎだよ、バイロイト」

僕は床に倒れているバイロイトの額を、つま先で小突いた。
履きなれない内羽根式のプレーントゥの革靴のせいか、力加減を間違って青痣を作ってしまったが見なかったことにした

「……痛っ!? セレスティス、セレ。私は寝てたんじゃなく、貴方のせいで意識を失っていたんですよ?」
「ちょっと絞めただけだよ?」
「竜騎士の貴方のちょっとは、私には“ぎりぎり”です」

バイロイトは額を押さえながら立ち上がり、首を左右に動かした。
頭部と首に異常が無いのを確認すると、背筋を伸ばして大きく息をはく。
……額に痣があるのは、鏡で見なければ分からないので黙っておこう。
その代わりに、僕は他のことを教えてやることにする。

「あのね、バイロイト」
「なんです?」

バイロイトの右眉が、微かに上がる。
僕が何を言うか、ちょっと警戒しているな。


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