四竜帝の大陸【赤の大陸編】
竜騎士として生まれた俺には、元々罪悪感も嫌悪感も欠落している。
旦那と姫さんを先に帰らせて、腕をもがれて転がってるあの男と術士だけじゃなくこの少年も、眠りこけてる奴等もまとめて殺っちゃうのは簡単だ。
そうしたって、旦那は気にしないだろう。
姫さんの知らないところで誰が殺されようと、何人……何千何万死のうと、旦那は興味が無いだろう。
でも、俺とカイユには今回は皆殺しにする気は無い。

まぁ、最初はあったんだけどねぇ。
姫さんを抱えて離さない、離せない状態(蜜月期の雄が久々につがいに触れられたんだから当然っつーか)の旦那をさっさと追っ払って、姫さんに知られないようにーー竜族に手ぇ出しやがったら、こうなっちゃうって、前にも言ったでしょう?ーーって、西域どころか大陸全土に改めて思い知らせなきゃならないって思ってたんだけど。

「……この子供の頭の中を視たうえで、旦那がああ言うとはねぇ~」


ーーありがとうございましたなのだ。

「あの<ヴェルヴァイド>がっ」

思い出すと……姫さんの前ではなんとか抑えていられたが、限界だった。

「……ぐ、ッ、、、ッ!」

高揚感と恐怖が、皮膚と肉の狭間を駆け抜ける。 
魔王と罵られ、神と崇められ、監視者と畏れられたあの人が……姫さん、あんたはあのヴェルヴァイドを変えてしまった。
またもそれを思い知らされ、無意識に強く噛み締めた歯がぎしりと音をたてる。

「……ッ……今回は運が良かっただけだ。再生能力の移行だけじゃ、駄目なんだよっ」

もう、後戻りはできないんだ。
俺も、四竜帝も、竜も、人も。

もう、『鳥居りこ』を失えない。
でも、まだ。
確実な策は見つからず、先へ進むために必要な道は作れていない。

この世界は。
『鳥居りこ』を、失えないのに。

「足りないんだよっ……必要なのは、あの人と同じだけのっ……竜珠で延命できるならっ……俺の竜珠で試して駄目だったら……ったく、どうしたらいいんだよ」

『鳥居りこ』は生きていた。
生きていたから、生きている間は。
<ヴェルヴァイド>は世界を維持することを放棄しない。

あの子は26だ。
残された時間は、長くは無いが短くも無い。


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