四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「そのままで。竜体のままでいて」

旦那の。
<ヴェルヴァイド>のかけらが、無くなっている。
予想外のことに、流石に俺も慌てた。
地上に降り、竜体から人型に変化しようとした俺にカイユが言った。

「短時間で変体を繰り返す行為は、“今のあなた”にとって負担が大きいでしょう?」
「ッ!?」

隠してきたことを暴くようなカイユの言葉に、全身の鱗がきゅっと締まる。
残された時間が長くは無いことが、ばれているのか?
この数ヶ月で吐血の回数が増えたことを、知っているのか?
後足で乾いた大地をかき、無意識に尾を左右に揺らしてしまった俺に。

「……馬鹿な人。ばればれよ?」

そう言いながら、カイユは腰にポケットから真新しい手袋を取り出すと白い手袋の裾を口で食んでひき、しっかりと指先もあわせる。
 照りつける太陽を銀の髪で弾いて……刀を抜いた。

「聞け! 人間共っ!!」

一目で“普通の竜族”ではないと判る装束のカイユと、天幕など容易く破壊できる体躯の竜である俺から逃れよう四方にと駆け出していた者達を,カイユの声と言葉が一瞬で捕らえる。


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