四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「カイユ、髪を切っちゃたんだって」
「なっ!? どうしてそんな事を! ダルフェはまだ生きてるのだから、あの子が髪を切る必要なんか無いでしょうっ!?」
うん、これが普通の反応だろうね。
「髪が短くたって、似合えばそれでいいじゃない。カイユの好きにしたらいいんだよ」
「まったく。セレは昔から、カイユに甘いのだから……」
細かなしきたりにうるさいタイプのバイロイトからすれば、有り得ない事なのかもしれないけれど。
竜族の暗部にどっぷり浸かって生きてきた僕には、髪がどうのなんてそんなことはあまり気にならない。
「でも、それをネタに堂々と婿殿をいびれるいい機会だよねっ……クロムウェルッ!!」
バイロイトを小脇に抱え、僕は屋上の中央まで跳んだ。
着地と同時に、僕の足元を中心にして青白い光が渦を巻く。
「障壁なら、もうやりました。次のご指示をどうぞ、団長閣下」
団長であるカイユが去ったことで、自動的にこの僕が<青の竜騎士団>の団長に繰り上げとなる。
孫もできたしそろそろ引退したいくらいだったんだけど、こればかりはしょうがない。
「閣下は止めなさい。指示じゃなく、質問がある」
「なんなりと、団長殿」
僕に荷物のように抱えられたバイロイトは、自分がまさに『お荷物』なのだと分かっているので文句を言うどころか微動だにしないで荷物になりきっている。
バイロイトにも“アレ”が見えているはずなのに、疑問も意見も口にしない。
「シャゼリズ・ゾペロの頭を掴んであそこに浮いてる奴、君の術式で捕らえられる?」
「まことに遺憾ながら、不可能です」
上空に現れた“アレ”に対処するのは、出来るのは。
どう考えても買い物に来た客ではない、“アレ”の相手をするのは。
<支店長>の自分ではなく、<竜騎士>である僕だからだ。
「そっ。じゃあ捕獲は無理ってことだ。僕が殺しちゃっても、陛下も他の竜帝も文句言えないよね~! ……ふふっ」
あの時。
僕は死ねなかった。
「バイロイト」
「はい、セレ」
僕を置いて黄泉に行ってしまったミルミラを追うため、先代陛下にもらった刀でこの首を斬ったのに死ねなかった。
「僕、『全開』で行くから」
後を追うことは、死ぬことは許されなかった。
「ちょっ……待ってください! 貴方が全開って……支店、出来れば壊さないで欲しいのですがっ」
ずっと。
「この街の住人を巻き添えにしていいなら、支店は残せるかもだけど?」
ずっと。
待ち望んでいた。
「……建て替えの見積もり出しておきます」
「うん、よろしく」
この瞬間を。
「ねぇ、君」
僕は願っていた、この時を。
僕は歓喜に満ち、喜びに溢れる。
「僕のお姫様を奪った“悪い魔法使い”の居場所、教えてくれるかな?」
愛する伴侶を奪われた竜族の雄には、報復する権利がある。
復讐する、権利がある。
これだけは、竜帝だろうが奪えない。
「会いたかったよ、導師(イマーム)」
僕、君に。
君に会いたいよ、ミルミラ。
早く会いたいんだ、僕の愛しいお姫様。
「なっ!? どうしてそんな事を! ダルフェはまだ生きてるのだから、あの子が髪を切る必要なんか無いでしょうっ!?」
うん、これが普通の反応だろうね。
「髪が短くたって、似合えばそれでいいじゃない。カイユの好きにしたらいいんだよ」
「まったく。セレは昔から、カイユに甘いのだから……」
細かなしきたりにうるさいタイプのバイロイトからすれば、有り得ない事なのかもしれないけれど。
竜族の暗部にどっぷり浸かって生きてきた僕には、髪がどうのなんてそんなことはあまり気にならない。
「でも、それをネタに堂々と婿殿をいびれるいい機会だよねっ……クロムウェルッ!!」
バイロイトを小脇に抱え、僕は屋上の中央まで跳んだ。
着地と同時に、僕の足元を中心にして青白い光が渦を巻く。
「障壁なら、もうやりました。次のご指示をどうぞ、団長閣下」
団長であるカイユが去ったことで、自動的にこの僕が<青の竜騎士団>の団長に繰り上げとなる。
孫もできたしそろそろ引退したいくらいだったんだけど、こればかりはしょうがない。
「閣下は止めなさい。指示じゃなく、質問がある」
「なんなりと、団長殿」
僕に荷物のように抱えられたバイロイトは、自分がまさに『お荷物』なのだと分かっているので文句を言うどころか微動だにしないで荷物になりきっている。
バイロイトにも“アレ”が見えているはずなのに、疑問も意見も口にしない。
「シャゼリズ・ゾペロの頭を掴んであそこに浮いてる奴、君の術式で捕らえられる?」
「まことに遺憾ながら、不可能です」
上空に現れた“アレ”に対処するのは、出来るのは。
どう考えても買い物に来た客ではない、“アレ”の相手をするのは。
<支店長>の自分ではなく、<竜騎士>である僕だからだ。
「そっ。じゃあ捕獲は無理ってことだ。僕が殺しちゃっても、陛下も他の竜帝も文句言えないよね~! ……ふふっ」
あの時。
僕は死ねなかった。
「バイロイト」
「はい、セレ」
僕を置いて黄泉に行ってしまったミルミラを追うため、先代陛下にもらった刀でこの首を斬ったのに死ねなかった。
「僕、『全開』で行くから」
後を追うことは、死ぬことは許されなかった。
「ちょっ……待ってください! 貴方が全開って……支店、出来れば壊さないで欲しいのですがっ」
ずっと。
「この街の住人を巻き添えにしていいなら、支店は残せるかもだけど?」
ずっと。
待ち望んでいた。
「……建て替えの見積もり出しておきます」
「うん、よろしく」
この瞬間を。
「ねぇ、君」
僕は願っていた、この時を。
僕は歓喜に満ち、喜びに溢れる。
「僕のお姫様を奪った“悪い魔法使い”の居場所、教えてくれるかな?」
愛する伴侶を奪われた竜族の雄には、報復する権利がある。
復讐する、権利がある。
これだけは、竜帝だろうが奪えない。
「会いたかったよ、導師(イマーム)」
僕、君に。
君に会いたいよ、ミルミラ。
早く会いたいんだ、僕の愛しいお姫様。