四竜帝の大陸【赤の大陸編】
同じ事を考えたであろうカイユの目つきが、さらに冷たく険しいものとなる。
でも、この少年にそれを求めてはいけないと俺もカイユも分かっている。

「……男、女? 名前、年齢、容姿、素性は?」

カイユに怯みながらも、少年は答えた。

「え? お、女! 素性は……そ、そんなの僕は知らないよ!? だって、あの女は一族じゃなくてアリシャリがどっかから連れて……」
「…………アリシャリ?」

聞き返したカイユの視線が何かを探すように動き、あるモノの上で止まる。

「そう、そいつ! 僕のお祖父ちゃんを殺した……そこで潰れちゃってる奴だよ!」

少年が指差したのは……うわ、やっぱ“あれ”のことかよ!?
カイユが踏み潰して殺しちゃった“あれ”の女か!?
俺は地面にべたりと広がっている“あれ”は、話すための口も考えるための脳もぐちゃぐだ。
とっくのとうに命が無いのだから、何一つ喋れない。
カイユが踏み潰し殺しちまった男に女について喋らせるのは、吐かせるのが得意な俺でも流石に無理だ。
俺達の去った数分間で腕を持ち、この場から居なくなる……竜体の俺が目視できる範囲に、人影はない。
俺とカイユを、団長級の竜騎士を出し抜くことができた女ってことだ。
普通の女じゃない。
本人が星持ちの上位術士、または傀儡系の術式を操る術士の手の者で、遠隔操作されて『消えた』か……どっちにしろ、やっかいなことになったなぁ。
術士が絡んでるとなると、高価な真珠の装飾品と勘違いして盗っただろうなんて、おめでたい考えは俺達には出来ない。

「……ダルフェ」

 自分の額に手をあて、ため息をついてから。

「こんな状態の脳でも持って帰れば、ヴェルヴァイド様は視てくださるかしら?」

カイユは俺に問いかけた。
問い、というか確認?
俺は首を左右にゆっくりと振って、それに答えた。
持って帰れば、旦那は“見て”くれるかもしれない。
姫さんにとって特別な存在であるカイユが頼めば、“見る”ことを否とは言わないだろう。
だが、原型を留めぬほど潰され、他の部位と雑じりあった状態では“見る”ことは可能でも、記憶を“視る”のは無理だ。
万が一、視れたとしても。
顔を知らない女じゃ、旦那だって膨大な記憶の中から拾えない……。
俯くカイユの全身を、俺は翼で抱くように包み込んだ。

==カイユ……すまない。俺が……。

首を曲げて顔を寄せ、かけらを置いて飛び立ってしまった俺を責めず、後悔と反省に苛まれるカイユの頬に舌を伸ばして舐めようとしたら。

「……ヴェルヴァイド様のかけらと知り、持ち去った……と、したら……。ダルフェ」

俺の鼻先に手を触れ、カイユが止めた。



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