黄泉送り ~3人の悪霊と1つの願い~

 普段であれば多いとは思わない30段ほどの石段を、ゼイゼイと大きく呼吸を乱しながら何とか上り切った。

 夜の静寂に包まれた境内。
 余りにも不気味で異質な空間。
 まるで、この世とあの世が入り混じったかの様な気配。この場所だけ、気温が低い様な気がする。
 ここに来た目的を果たすため、境内を見渡し石造りの狛犬へと走る。

「あった・・・」

 ここまで来ておいて、とは思うが、正直なところ目を疑った。本当に、それはあった。
 獰猛に開け放たれた狛犬の口。正確には下の犬歯に、真っ黒な数珠が掛かっている。
 全く光を反射しない真っ黒な石に穴を開け、麻紐で繋いだ不気味な数珠。迷うことなく、それを左手首にはめた。

 その場で1分余り、自分の身に起きる変化を待つ。自分自身を何度も確かめるが、特に何も変わった様子はない。落胆の溜め息と同時に、ぶつけようが無い怒りが沸々と湧き上がる。

 くそ!!
 何だよこれは!!
 くそっ!!
 何だったんだ、あの声は!!
 それならどうして、ここに数珠があるんだよ!!

 足下に視線を落とし、何度も地面を踏みつける。
 その時、不意に何者かの視線を感じ、俺は顔を上げて境内の奥に視線を移した。

 誰かがいる。
 誰もいなかったはずの賽銭箱のすぐ横に、いつの間にか人が座っている。いや、人という明確なものではない。
 白い人影が見える。

< 3 / 100 >

この作品をシェア

pagetop