黄泉送り ~3人の悪霊と1つの願い~
「どうぞ」
リビングに座る俺の前に、母親が麦茶の入ったコップを置く。そして、テーブルを挟んだ正面に腰を下ろした。
「また嫌がらせかと。萌香と話したなんて嘘だと思いましたが、この髪留めの由来を知っているのは、あの子と私しかいませんから」
「嘘ではありません。実際に、会って来ましたから」
母親の目が大きく開き、すぐに伏し目になる。
「そ、それで、あの子は・・・あの子は何か言ってましたか?」
その表情には、覚悟と怯えが入り乱れている。
「あの交差点には・・・女の子の幽霊が出るという噂があります。霊はこの世に強い未練があると、その想いに縛られて成仏できません」
母親の顔が急激に暗くなる。色々と思い起こす事があるのだろう。
それも、後悔する事ばかり。
母親の口から懺悔の言葉が溢れ出す。
「あの子には・・・あの子には、本当にヒドい事をしました。噂は聞いているんでしょ。あのヒトデナシは、ここに実在しているんです」
その言葉1つ1つが、闇に溶けていく。