黄泉送り ~3人の悪霊と1つの願い~
ノートの上に、ポタポタと音を立てて涙が落ちる。取り返しがつかない事の大きさに耐え切れず、母親がその場にしゃがみこむ。嗚咽を含んだ鳴き声は、深々とした闇に吸い込まれていく。
ひとしきり泣いた後、母親はゆっくりと立ち上がり歩き始めた。
「どこに行くんですか?」
「会いに行かなきゃ・・・今すぐ、あの子に会いに行かなきゃ」
玄関に向かう母親を呼び止める。
「その必要はありません」
母親が振り返る。
「萌香ちゃんは、さっきからずっとここにいます。交差点から俺について来ましたから」
母親が慌てて室内を見渡し、周囲に呼び掛ける。
「萌香・・・萌香どこ?」
俺の横にいた萌香が、ゆっくりと母親の元に歩み寄る。あの赤い瘴気は消え、眩いばかりの真っ白な光を纏っている。
萌香を縛っていた想いは、叶ったのだろう。
萌香がフワリと舞い上がり、母親の頭を撫でる仕草をする。
でも、母親はそれに気付くことはない。
そうだ!!
俺は母親の元に行くと左手にはめていた数珠を外し、それを彼女の手首にはめる。その瞬間、母親が虚空を見詰めて動きを止める。
「・・・萌香──」