黄泉送り ~3人の悪霊と1つの願い~
俺の頭を目掛けて、容赦なく鉄パイプが振り下ろされる。身体を捻って避けると、先端部分が目の前の床に激突し、甲高い金属音を上げてコンクリート片を撒き散らした。
状況がまったく掴めない。
しかし、今は考えている余裕など無い。とにかく、ここから逃げるしかない。
俺は窓辺を離れ、2階の奥へと走る。次第に濃くなる暗闇を進みながら、1階へと続く階段を探す。頬を流れる汗は冷め切り、今が真夏だという事を忘れてしまいそうだ。
「2階に上がり人影に襲われる」という事がこの襲撃ならば、その「事件現場」はすぐ近くにあるのか?
事件とは何だ?
いや、そもそもなぜ襲われているんだ?
通路を走りながら、必死に頭の中を整理する。だが、今の状況が思考を中断し、正当な答えを出させない。
映画ではゾンビなどの類は動作が緩慢と相場が決まっているが、追ってくるアレは普通の人間と大差がない。
通路が数メートル先で、左右に伸びる別の通路で行き止まっている。直感に従い右を選択、スピードを落とさずに曲がる。
「あっ・・・」
曲がった先に見えたもの、それは閉ざされた扉だった。
行き止まりだ──
慌てて、すぐ引き返そうと振り返る。
しかし、既にそこにはアレが立ちはだかっていた。