黄泉送り ~3人の悪霊と1つの願い~
無理矢理死を覚悟しようとした俺の左腕を、何の前触れもなく巫女装束の少女が掴む。
驚く俺を無視して、少女が呟く。
「黄泉送りの数珠・・・」
そして、その大きい瞳で俺を見詰める。
「あなたは・・・いえ、今から?」
「え?」
背後からパラパラとコンクリートの破片が床に散らばる音がし、穴が開いた壁から悪霊が這い出して来る。
「黄泉送りの数珠があれば、何とかなるかも知れません」
そう言うと、巫女装束の少女が俺と手を繋ぐ。そして懐から出した鈴を鳴らし始めた。
「アチメ オオオオ オオオオ オオオオ
天地ニキ揺ラカスハ サ揺ラカス 神ワカモ 神コソハ キネキコウ キ揺ラナラハ
アチメ オオオオ オオオオ オオオオ
石ノ上 布瑠社ノ 太刀モガト 願フ其ノ児ニ 其ノ奉ル」
「鎮魂歌・・・」
瑠衣が震えながら呟く。
「魂を天に還すとも、神様を降ろすとも謂われる祝詞。唱える人なんて初めて見た」
黄泉送りの数珠が紫色に輝き、その光が鈴にも宿り、振る度に光の粒子が周囲に飛び散る。
悪霊が3メートルほど離れた場所で停止し、淡い光に包まれる。
「アチメ オオオ オオオ オオオ
御霊ミニ 去マシシ神は 今ゾ来マセル 魂営持チテ 去リクルシ御霊 魂返シスナヤ」
鈴の音が3度大きく鳴り響き、巫女装束の少女は天を仰ぐ。
「成仏しました」