黄泉送り ~3人の悪霊と1つの願い~

 電柱や物陰に隠れる様にして佇む白い人影達。俺が見えていることに気付いていない。いや、一人だけ気付いたが、その場から霧の様に消えた。

 一体何なんだ?
 あの様子だと、襲ってくるどころか俺に怯えていた。

 何も分からないまま自転車を押して歩いていると、市橋駅が見えてきた。新興住宅地と違い古びた街並みが続く駅周辺は、再開発される事もなく乱雑な雰囲気だ。
 俺は駅前の小さなロータリー脇に自転車を置き、その場にしゃがみ込んだ。

 ここに来るまでの道のりで、1つだけ分かったことがある。人が多く集まる場所に、同じ様に霊が多く集まっているということ。それならば、駅は一番の心霊スポットという事になる。

 ブロック塀にもたれかかり、行き交う人波とそこかしこに潜む人影を観察する。1時間が過ぎ、2時間が過ぎる。

 普通の人からは見えないのに、目立たない様に物陰から辺りをうかがう人影達。
 分からない。
 あれが悪霊?
 本当に存在するのか?
 そもそも悪霊に襲われただのという話を、テレビやネット、噂話以外で聞いたことがない。

 道向こうの自動販売機の陰から駅方面の様子を窺う人影を、ジッと観察している時だった。

「あれが見えてるんだ」

 不意に投げ掛けられた声に、驚いて顔を上げた。

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