黄泉送り ~3人の悪霊と1つの願い~
◇生者のオモイ
室内を支配する静寂。
しかし、それも長くは続かない。
窓際に佇む悪霊が、真っ黒な涙を流しながら悶え苦しんでいるからだ。
もう一刻の猶予も無い。もし黒色化すれば、ここにいる俺達の生命は風前の灯だ。
マキさんは、悪霊と化した笠原さんが見えていない。もし見えていれば、あの姿が目に写れば、解放しているに違いない。
「マキさん」
俺は振り返り、最後の説得を試みる。そっと近付き、手首を掴む。
「な、何を・・・」
突然手を掴まれたマキさんは、顔を上げて俺を睨み付ける。しかし、俺の背後にいる赤黒い人影が視界に入ったのか、視線が空中で固まった。
「笠原さんですよ」
マキさんの目が見開かれる。
「あそこで苦しんでいるのは、あなたが愛した笠原さんです。あなたが・・・あなたが手首を持ち帰り、悪霊にしてしまった笠原さんです」
マキさんの気持ちは痛いほど分かる。
もし果穂の事故現場に立ち会っていれば、俺は間違いなく彼女を自宅に連れて帰った。例え息をしていなくても、それでも連れて帰った。