君と金魚、夜
「俺さ、お金持ちの社長の息子なの、しかも長男」
「はい…」
「どれくらいお金持ちかって言うとまぁ…親父が趣味で起業して作ったのがそのビル」
洸人さんはあたしがいつも授業中に見ていたあのビルを指差した。
「あれがほんの趣味程度の一部、何百人も働いてるんだけどさ。そういう親父がいて、そこを継ぐのが長男だっていう風潮があるんだ。弟はそんなに成績も良くないし」
「はい…」
「でも俺は会社なんか継ぎたくなくて大学も辞めて縁切って1人で生きて行くつもりでいた、金にも興味なかったし。でも出来なかった」
「どうしてですか?」
「1年ぐらい前、親父が軽い病気で倒れて、母親もその親父に付き添ってちょっとだけ精神的にまいって。弟もどっちつかずな俺見て荒れてきたんだ」
「……」
「だから俺が継ぐって宣言せざるを得なくなっちまったんだ、5年後って猶予つけたんだけどそれもあと4年」
この人は4年後には社長をしているんだ、と思うとすごい人に見えてくる。