君と金魚、夜
「苦し…い…」
あたしは息ができないくらいなのに、微かにシャツから煙草の匂いがしてクラクラする。
そういえば初めて会った時は障害者用トイレの中で洸人さんが倒れてきた気がする。
その時と同じ煙草の匂い。
「洸人さん…?」
「……」
「分かんないです」
もっと焦ったりしてもいいはずな時に出たのは主語のない言葉だった。
心臓は止まりそうで、いろんな事が分からない。
ただ髪を撫でられている。
「ていうかありがとうございます…助けてくれて」
「……」
「苦しい、強いです」
「…ごめん」
「えっ?」
「ごめんな、こんな俺でごめん」
あたし達は何でもなくてまだ何も知らないのに。
ただ洸人さんはごめんって言うばっかりだった。