仮定
崩れる日常
「晴真ってば遅いなー…先生にでも捕まってんのかなー」
ミンミンと蝉の声がうるさく、蒸し暑い7月の夕方6時。
部活帰りのあたしは、幼馴染みの晴真(セイマ)を待っていた。
「もー…あっついなぁ…。しょーがない、帰るか。大幅に遅れる晴真が悪いんだもんねーだ」
ぶつくさ文句を言いながら歩き出し、晴真に送るメールを作成し始めたときだった。
「莉緒ー!!」
「…あ、晴真」
片手にプリントの束、肩に部活の鞄を掛けた晴真が手を振り後ろから駆け寄ってきた。
「おっそーいー!暑いし、もう帰るとこだったよ!」
「ハァ…ハァ……わ、わりーわりー…相原に捕まってもて…ほら見てやこれ……」
「ん、何? ……げ、分厚…古文漢文の課題プリント…?」
「そやねん!こないだの小テストが悪かったからってさー、一週間でやってこいってよ…オレにそんな頭があるかっちゅーねん!アホか!!」
「バカなのは晴真だよ…あんな小テスト、勘でも5点は取れるよ?」
「オレは勘でも取られへんねん!嫌味かこのやろー!」
喚きながらあたしの頭を小突く晴真。
「いだっ!ちょ……やったなぁぁ!?」
「あだっ!!おっおまえ!本気で今いでぇっ!こ、このやろてめー許さんっ!」
「わっ、ちょっ何す……!きゃー!やめてくすぐった…あははははは!ちょ、も、あはははっ!!へ、へんたうひゃひゃひゃひゃ!」
「ぶはっ!うひゃひゃっておまえ!笑い方おかしいやろ…!プッ、あっはははは!!」
「隙あり!」
「ぐはっ!! ……ぐふっ……や、やったなぁぁぁ!!」
「きゃー!!助けてー!変質者がー!!」
「誰が変質者や待てコラあぁぁぁ!!」
学校の帰り道、じゃれあう二人。
晴真は小学生の頃関西から引っ越してきた。
家がお隣同士ということもあり家族ぐるみの付き合いで、兄弟のような親友の様な存在。
端から見ればただの騒いでる近所迷惑なガキ。
でもあたしにとっては楽しい一時で、欠かせない日常。
これからもずっとこんな毎日が続くんだと思っていた。
───その瞬間までは。