仮定
「ごるぁああぁあぁ!!」
「きゃー!こわいこわーい!誰か助け」
ドンッ
「へぶッ!」
顔だけ後方に向け走っていたせいで、思いっきり人にぶつかり尻餅をついた。
「…い、いったぁぁぁ……」
「う、うおぉい莉緒!!大丈夫か!?」
「あ…うん、大丈夫! あ…あの前方不注意でした。すみませ…」
「──リオン?」
衝突したせいでジンジンと痛む鼻を押さえながら顔を上げようとしたときだった。
あたしとぶつかった、男性らしき人の低い声が上から降ってきたのだ。
……いま、りおって……?
パッと顔を上げその名を呟いた男性を見る。
───…わ……綺麗な人……
率直な感想が、これだった。
肩の上でサラサラと風に揺れる銀色の髪。
よく日に焼けた肌に、しなやかな筋肉のついた身体。
そして何より、燃えるような赤い瞳。
どこまで見てるんだって感じだけど、きっと彼を見たのは一瞬。
一瞬でその美しさに釘付けになってしまったのだ。
「…緒、莉緒ー!」
駆け寄ってくる晴真の声にハッとする。
「おい、大丈夫か? ったく…ちゃんと前見なあかんやろ」
「あ…ありがとう」
そう言いながらあたしの両手を取り、起こしてくれる。
「怪我ないか?」
「うん、大丈夫だよ。 …あ、それより…すみませんでした…」
改めてその男性に謝るため向き直ると、男性はただあたしの顔を凝視している。
「…。」
「……あ、あの…?」
……な、何…?
あたしの顔、そんなに変…?
…なんだかちょっと傷付いた。
「おい、何ガン見して…──」
「…似ている」
「は?」
晴真が男性に声を掛けた瞬間だった。
男性が、ボソッと呟いたのだ。
……え?あたし?
似てる…?
あたし、誰かに似てるのかな?