好きになった人、愛した人。
そこで言葉を切り、グッと奥歯をかみしめる。


心臓が飛び出そうなのをなんとかごまかし、コーヒーを1口飲んだ。


でも、味なんて今のあたしにはわからなかった。


「見たって? なにを?」


「とぼけるな! 奈生と抱き合ってたじゃないか!」


その名前を聞いた瞬間体の芯がジンジンと熱い熱を帯びて、自分の奈生への気持ちを再確認させられてしまう。


「それが、そうかした?」


微かに震えた声。


でも、矢原には気づかれなかったようで、ホッとする。
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