好きになった人、愛した人。
「パティシエ目指してること、矢原から聞いたの?」


「いや。あんたさ、ここ来るときいっつも甘い香りするから」


そう言われればそうか。


大学に出席した後だから、砂糖などのにおいが染みついているんだ。


「ごめんね、気づかなかった」


「別にいいよ。いつか食わせてもらうし」


奈生の言葉に、ドキッとする。


この先の未来がどれだけ残っているかもわからないこの子から、『いつか』なんて曖昧な約束の言葉が発せられたから。
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