好きになった人、愛した人。
「そんな事ないだろ? 兄貴の玩具を何度も俺が取り上げた。大切なものを、奪ってきた」


奈生の言葉に矢原は軽く唇をかんで黙り込んでしまった。


言ってはいけない言葉を言ってしまいそうで恐いのか、肩が小刻みに震えている。


しかし、奈生はまだ自分に対して遠慮している兄を見るのが苦痛だった。


いつまで待てば、家族は自分の前で本当の笑顔を見せてくれるのだろう。


疲れたときに、疲れたとちゃんと言ってくれるようになるのは、一体いつなんだろう。


「なぁ兄貴――」



「これ、なんだよ」


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