好きになった人、愛した人。
あたしは久しぶりに矢原とであったあの木の前に立ち、くしゃくしゃになったメモを取り出した。


矢原があの時に書いてくれた住所と電話番号だ。


思えば、あたしと奈生を引き寄せてくれたのは矢原だった。


そして、あたちたちを引き裂いたのも。


あの兄弟には、まだまだ深い溝が刻まれている。


他者のあたしがその場所に割ってはいることなど、きっとできないだろう。


当人同士の問題に首を突っ込むつもりはなかった。


でも、奈生との問題は、あたしにも関係している。
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