好きになった人、愛した人。
☆☆☆

すべてを聞いて、あたしはなにも口を開けずにいた。


こんな時、何を言えばいいのかわからない自分がすごくもどかしい。


「奈生は、今でもそれを気にしてる。だから、やりたいことを更に我慢するようになった」


「事故なんて奈生のせいじゃないのに……」


「でも、奈生はそうは思っていない」


そう言い切る矢原に、あたしは何も言えなくなってしまった。


「我慢せずに、美術の勉強をするのがあいつにとっては一番の親孝行なのにな」


呟く矢原の声が、寂しく空中へ消えて行った。
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