好きになった人、愛した人。
「そうですか、じゃぁいいです」


あたしは相手の返事も待たずに電話を切った。


茶色のバッグから赤ペンを取り出し、求人広告の《ファミリーレストランフロンティア》に、×印をつける。


「まいったなぁ……」


すでに広告の半分以上が赤い×印で埋まっている。


あたしは黒いローファーでさっき道に落ちた紅葉をキュッと踏んづけた。


あんたが縁起悪く落ちたりするからよ。


なんて、八つ当たりするみたいに。


「これじゃ全滅だわ」


歩道に植えられた紅葉の木に背を持たれて、また広告を睨み付ける。
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