好きになった人、愛した人。
プレハブの引き戸を開くと、まず部屋の目の前にある大きなキャンバスに目を奪われた。


まだ未完成らしく、キャンバスの横には出しっぱなしの絵の具があった。


「入れよ」


奈生にうながされて足を踏み入れると、絵の具の匂いが鼻を刺激した。


「すごい……」


壁にかけられている数々の絵に、思わずそんな言葉がこぼれる。


絵は飾られているだけでなく、壁に無造作に立て掛けられているものもあった。


ほとんどが風景画で、ここの家から見た景色が描かれているみたいだ。


入院中の奈生が、直接いろんな場所に行って絵を描きたいと言っていたことを思い出す。
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