好きになった人、愛した人。
キッチンに入ると、あたしはラップにくるまれたおかずには目を向けず、すぐにおにりぎを作り始めた。


カタカタを小刻みに手が震え、思うように動かない。


何ヶ月ぶりかに見た、太一の顔。


生気を失ったようにうつろで、未来への希望も、憧れも、なにもかも失ってしまったような目。


「ごめんなさい……ごめんなさい」


おにぎりを作りながら、あたしは何度も何度も呟いた。


太一があんなことになってしまったのは、あたしのせいだから。


あたしがこの家に来たことが原因だから――。
< 53 / 395 >

この作品をシェア

pagetop