好きになった人、愛した人。
そう思って棚を眺めていると、

「よ、バイトどう?」

という声がしてきて、振り向いた。


そこにはニカッと笑う矢原の姿。


その顔に、あたしはあからさまにムッとした顔を作った。


「どうした? なんかあったか?」


「『なんかあったか?』じゃぁないわよ。弟がいるなんて聞いてないわよ」


小声で、だけど強くそう言う。


矢原とは路上で会った以来会っていないので、詳しい話は全くできていなかった。
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