好きになった人、愛した人。
だから、矢原はスーツ姿で運動靴をはく。


革靴だと馴染むまで時間がかかり、危険だから。


「ねぇ矢原」


「なに?」


「そろそろ靴変えないの? ボロボロじゃん」


「あぁ、運動靴も慣れてたほうが歩きやすいから」


うそつき。


その靴は高校時代、サッカーで一番活躍していた頃のものだと、あたしは知っていた。


矢原のことを、ずっと見ていたから。


ずっと、思ってきたから。


あたしは、知ってる。
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